うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『細雪』谷崎潤一郎

 関西に住む中流家庭の4人姉妹(特にそのうちの3人)を題材にした話。姉妹のうちの1人は社会性がなく30を過ぎても見合いがうまくいかず未婚だった。また末っ子は才気走っているが、身分違いの人間と付き合う、複数人の男と付き合う、結婚前に妊娠する等、当時の家のルールに従わず家族の婚期を遅らせていた。

 以上のような関西人の細かいコミュニケーションの取り方や、身分についての認識、社会規範との妥協等、生活の細かいところが描かれている。退屈はせず、この人たちの暮らしぶりや感情も良く頭に入ってはくるが、だから何だという気になった。

 度々トラブルを起こす義理の妹に、姉の夫や本家は悩まされる。やれ、身分の低い男と付き合っている、結婚するつもりのない凡々に金を貢がせている、知らない男の子供を妊娠した等。こうした細かいトラブルに振り回される背後では、満洲事変と日中戦争が展開している。服務的に問題のある末っ子の様子を見ると、ふと○○隊の業務を連想した。こうした問題人物の問題行動に対処して火消しをするという作業は平和極まりない世界でおこなわれるものである。

 この本に出てくる階級について……結婚の際は必ず興信所に頼んで相手の素性を調査してもらう。また教養のない人間、学歴の低い人間は回避される。身分による秩序は世の中に必ずついてまわると感じた。

 

細雪 (中公文庫)

細雪 (中公文庫)