うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『2666』ロベルト・ボラーニョ

 謎のドイツ文学者と、シウダフアレス市で発生している連続女性殺人事件を題材にとった小説。


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 (1)アルチンボルディという架空のドイツ人作家を愛好する4人の学者(女含む)について。架空の作家を追求するところまでは興味がわいたが、4人の恋愛関係がどうした、こうした、という段階に来るととたんに興ざめした。
 (2)研究者たち、3人の男と1人の女の仲がこじれていく。
 (3)チリ人アマルフィターノと、その元恋人、娘についての話。メキシコ、サンタテレサ市での女性殺人事件について言及がある。
 (4)フェイトの部……黒人の雑誌記者フェイトは、ボクシングの試合を取材するため、サンタテレサ市にやってくる。そこで、連続女性殺人事件を調査する記者に出会う。また、連続殺人に関わる人びと、麻薬の影に近づいていく。
 フェイトと知り合ったあばずれ女は身の危険を感じて、フェイトとともに逃走する。刑務所には殺人事件の容疑者が収容されていたが、その外観はアルチンボルディそっくりだった。
 (5)犯罪の部……サンタテレサ市において、教会の聖具を破壊して回る男と、それを追う捜査官の話。また、女性を惨殺する事件が連続して発生するが、犯人は捕まらない。
 ある人物は、社会の外にいる人間が死んでも誰も気に留めない、と言った。サンタテレサの女性たちは次々と強姦され殺されていくが、警察はほとんど捜査しない。
 (6)無名の女が大量に殺されていく一方で、警察官や捜査官たちは女を見下す笑い話を続ける。また、一部の格式ある人間たちが国の機関や企業を占有している。
 (7)アルチンボルディの部……ハンス・ライターと呼ばれる、変り者ののっぽの子供が成長して、独ソ戦に従軍するまで。また、ロシアの作家イワノフとアンスキーが、革命とその後の粛清に巻き込まれるまで。ヨーロッパの歴史をなぞるような人物の評伝が続く。
 戦後、ハンスはアルチンボルディと名乗り小説を出版する。

 

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 情報過多の小説という印象を受けた。情報や出来事、細部をひたすら詰め込んだ、設定資料や脚本を連想させる。
 アルチンボルディの生涯と、メキシコ国境の殺人、4人の批評家たちが直接かかわることはないが、薄い関連がある。アルチンボルディ、本名ハンス・ライターは朴訥として浮世離れしているが、ぼんやりとした義侠心は持っているようで、身分を偽る親衛隊の戦犯を殺害する。
 作者は真面目で正義感の強い人物らしく、戦争中の軍による非人道行為や、メキシコに蔓延する女性蔑視を言外に非難する姿勢が際立っている。しかし、正義感はフィクションにおいて特別利益となるわけではない。わたしは道徳の教科書を読みたいわけではない。にじみ出る道徳心リョサの小説を思い出させた。

 

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