うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『The killing of Osama Bin Laden』Seymour Hersh その1

 オバマ政権の欺瞞を指摘する本。

 著者は調査報道ジャーナリストで、ベトナム戦争におけるミライ村虐殺、イラク戦争アブグレイブ収容所捕虜虐待などのスクープで有名な人物である。

 

 オバマは国内において景気対策・福祉政策を講じる一方、軍事政策では国民を欺いた。

 

オバマは、自分たちでもおそらく信じていない理由のために、アフガン派兵を続けている。

・政治的暗殺、拷問、人権侵害、特殊部隊への依存はオバマ政権になって悪化した。オバマはブッシュの「テロとの戦い」を継承したが、その効果は全く見られない。

・国民への嘘の多さ……ビンラディン暗殺の経緯、シリア反政府軍化学兵器使用等。

 

 本書は主に匿名の関係者からの情報に基づいて構成される。

 

 ◆メモ

 『アメリカの秘密戦争』ではブッシュ政権イラク戦争を批判したが、本作でもオバマ大統領を筆頭に以下政府、情報機関、軍の欺瞞を検証する。

 内容が正しいとすれば、なぜオバマは無意味なアフガン戦争を継続させ、また嘘の説明をしたのだろうか。

 ブッシュと異なり、思慮深い印象のある大統領だが、やっていることは本人の言葉とはかけ離れている。ハーシュは、オバマが「きれいな言葉」を吐くと指摘する。

 

  ***

 1 ビンラディン殺害

 退役将校の証言により、ビンラディンの暗殺は、政府の説明とは異なることがわかった。

ビンラディンはISI(パキスタン軍統合情報局)に捕えられ、アボッタバードに軟禁されていた。しかし、支援組織であるアルカイダタリバンの反発を恐れ、ISIは事実を公表しなかった。

サウジアラビアアルカイダを隠密裏に支援してきたが、ビンラディンの生存は、サウジアラビアの立場を危うくする可能性があった。

パキスタン軍の将校が、ビンラディンの所在をCIAにたれこんだ。

オバマは、情報の確実性を検討した後、ISI黙認の下、NAVYSEALSを派遣し、邸宅に軟禁されていたビンラディンを殺害した。

・当初のオバマの発表と、その後の政府の発表は食い違い、混乱していた。最終的に、パキスタンには知らせず、CIAが独自にビンラディンの居場所を割り出し銃撃戦の末殺害したことになった。

・屍体は水葬されたのではなく、特殊部隊のヘリから、山に投げ捨てられた。当初、作戦を公表するつもりがなかったため、隊員はビンラディンの屍体をバラバラにしていた。

 ビンラディン殺害は、オバマ政権再選のために脚色され、利用された。

 

  ***

 レッドラインとラットライン

 2013年8月、シリアで化学兵器が使用されたとき、オバマは政府軍による使用と断定した。しかし、約束通りには空爆を断行せず、議会の承認を求めた。

 

・シリア政府軍が化学兵器を使用した場合、アメリカは軍事介入に踏み切ると宣言していた。

・ジハーディストからなる反政府軍は、政府軍に負けつつあった。反政府軍を支援していたトルコとサウジアラビアは、反政府軍化学兵器を使わせ、これを政府軍の仕業として米軍の介入を招く方策をとった。

英米、トルコは、リビアの武器をシリア反政府軍横流しするルート(ラットライン)を開拓していた。

 アメリカが手を引いてからは、トルコが中心となり、反政府軍……アルカイダやアル・ヌスラ戦線、ISISに地対空ミサイルや化学兵器を供与した。

・「米軍」は、シリアへの軍事介入は失敗につながるとして反対だった(オバマ政権とは異なる立場)。また、情報機関は化学兵器サリンを使ったのが反政府側であるとの証拠をつかんでいた。

・こうして、オバマは自ら提示した「レッドライン」をひっこめることになった。

 

  ***

 だれのサリンか?

 情報機関からの報告では、2013年8月の化学兵器使用はシリア政府軍ではないという見方が濃厚だった。しかし、このことはもみ消された。

  ***

 [つづく]

 

The Killing of Osama Bin Laden

The Killing of Osama Bin Laden

 

 

『コーカサス 国際関係の十字路』廣瀬陽子

 国際関係を中心にコーカサスの概要を説明する本。

 コーカサスは西を黒海・トルコ、東をカスピ海、南をイランに囲まれた地域を指す。

 南コーカサスアゼルバイジャングルジアアルメニアからなり、北コーカサスロシア連邦の共和国……チェチェン、イングーシ、ダゲスタン、北オセチア・アラニア等からなる。

 

 ◆メモ

 ジョージア共和国(グルジア)を旅行したとき、ドライバーの男性が「Putin- Cannibal(人食い)、Stalin-Terrorist」とコメントしていたのを思い出す。一方ガイドの女性は、ロシアを擁護し、ドライバーをたしなめていた。

 コーカサスは帝国の裏庭ということで中南米のような非常に不運なポジションにあるが、文化や歴史は非常に興味深い。

 

 1 特徴

 コーカサス地域は、次の理由から、国際政治上の重要拠点とされる。

・イランに隣接している

天然ガスの産地である

・民族紛争、多言語、多宗教

 アルメニアグルジアはそれぞれ世界で1番目、2番目にキリスト教を国教化した国であり(4世紀)、アルメニア教会、グルジア正教はそれぞれ独自のものである。

 1915年のトルコによるアルメニア人虐殺問題はいまだに解決されていない。

 

 2 南コーカサス

 未承認国家とは、ソ連時代に自治州だった国が、解体後、国家内国家として存在しているものをいう。

ナゴルノ・カラバフアゼルバイジャン)、アブハジア南オセチアグルジア)、沿ドニエストルモルドヴァ)等。

 こうした国家はロシアが介入するための口実に使われている。

(1)アゼルバイジャン

ナゴルノ・カラバフ紛争……アルメニア人居住地域(国土の2割)の帰属をめぐってソ連末期に戦争が起こり、まだ緊張状態にある。

クルド人問題

・ナヒチェヴァン……アゼルバイジャンの飛び地で、政情不安定である。

北コーカサスの民族、山岳ユダヤ人……アゼルバイジャンは、イスラエルと関係が深い。

(2)グルジア

アブハジア自治共和国問題……ソ連末期に独立紛争

南オセチア共和国問題

・アジャリア……黒海沿岸の都市パトゥミは経済的に栄えているが、ここに住むアジャール人はムスリムである。

・バンキシ渓谷……チェチェン系が居住するため、ロシアが空爆

 

 ――また、ロシアが「アメリカのイラク戦争に目をつぶる代わりに、ロシアのバンキシ渓谷への攻撃には目をつぶる」という取引をアメリカと行ったともいわれている。

 

(3)アルメニア

少数民族……ヤズィディ、ロシア人、アッシリア人

アルメニア人のディアスポラ……本国300万人に対し、2倍の国外居住者がいる。アルメニア・ロビーは欧米で強い力を持つ。

 各国の紛争を支援しているのはロシアである。グルジア領内の南オセチアアブハジアでは、住民はロシアパスポートを持ち、ロシアの国政選挙にも参加可能である。

 

 3 北コーカサス

 北コーカサスでは、ロシアは紛争当事者となる。

(1)チェチェン

チェチェン紛争……第1次1994~1996、第2次1999~2008年まで

・91年、ドゥダーエフの独立宣言をきっかけに、エリツィン内務省部隊を投入、その後94年から紛争が始まった。

・停戦後、穏健派イスラームチェチェン軍閥と、原理主義的な義勇兵との間で対立が生まれ、国内は収拾がつかなくなった。

・99年のチェチェン武装勢力ダゲスタン侵攻、アパート連続爆破テロ事件をきっかけに第2次チェチェン紛争が始まった。

プーチンイスラム指導者カディロフを傀儡政府に仕立て上げることでチェチェン紛争を内戦下させた。

 

 ――「カディロフツィ」はカディロフの息子であるラムザン・カディロフを中心に組織されていた。彼らは、身代金狙いや怨恨による誘拐、拷問、殺人、略奪、強姦など多くの悪質な事件を引き起こし、ロシア連邦軍以上に恐れられるようになっていったのである。

 

・2004年、アフマド・カディロフが暗殺され、息子のカディロフがチェチェンの首相、大統領となった。

(2)ダゲスタン共和国

(3)イングーシ共和国、北オセチア・アラニア共和国

・イングーシ人とオセット人との間に戦争が起こり、ロシアが仲裁した。原因は、イングーシ人がスターリンによって強制移住させられていた間に、オセット人が土地家屋を占有していたからである。

・オセット人は歴史的にロシアと良好な関係にあるため、他のコーカサス諸民族から疎まれている。

 

 4 天然資源

 アゼルバイジャンは古来から石油の産地だった。

 ガスと石油のパイプライン建設をめぐっては、政治的な思惑が重視される。

 BTCパイプライン……バクー、グルジア、ジェイハン(トルコ)を通過するルートで、2006年に完成した。バクーの石油が、ロシアを経由せず欧州に供給されることを可能にした。

 カスピ海は海なのか、湖なのか。カスピ海に接する各国は、自国のエネルギー権益にとって都合のいい解釈を主張する。

 アゼルバイジャンはエネルギー産業から利益を得たが、汚職と不正の横行、生活水準の低さは大きな問題であり、「オランダ化」(天然資源が枯渇したとき、国の基幹産業が何もない状態)を懸念されている。

 

 5 コーカサス三国

 アゼルバイジャンのアリエフとグルジアのシュワルナゼ……ロシアから距離を置く政策。

 アルメニアは安全保障上ロシアに依存しているが、一方で欧米に対し親しみも感じている。

 1996年結成されたGUAMは、グルジアウクライナアゼルバイジャンモルドヴァによる政治経済的協力グループである。方針は、民主化、ロシアの影響力排除、親欧米トルコ、EUおよびNATOとの協力、EUへの統合である。

 2003年、グルジア民主化デモがおこりシュワルナゼが逃亡した。これは「バラ革命」と呼ばれる。ウクライナと同じく民主化デモを支援したのは欧米のNGOだった。

 革命によりサアカシュヴィリが大統領に就いたが、経済状況は悪化し、政治的な不正も是正されず、状況は悪化したといえる。

 民主化の失敗により、グルジアでは反米感情が増大している。

 

 6 欧米、トルコ、イラン

 米国はコーカサス三国に支援を行っており、理由は次のとおりである。

・エネルギー

・ロシアとの地政学的関係から

・人権外交

 特にグルジアはEU加盟に熱心だが、実際に三国がEUに統合される可能性はほぼないと思われる。

・経済援助

・紛争解決

民主化支援

 NATOと三国の接近に対して、ロシアは警戒している。

 トルコ……アルメニアとは険悪であり、アゼルバイジャンとは民族的に近いこともあり関係が深い。

 イランには本国の2倍以上のアゼルバイジャン人が住んでおり、イラン人口の25%を占める。かれらはイラン社会で高い地位を占めており、独立や統合の動きはない。
 イランとアゼルバイジャンとは、競合関係にある。しかしイランとアルメニアグルジアとの関係は良好である。

 

 今後

 現在、コーカサスは小康状態にあるが、問題は継続するだろう。

 

 ――現在、南コーカサスの三国は、自国の体制を「欧米スタンダード」に近づけ、欧米諸国との親密化を図っているが、度を超すようなことがあればロシアの懲罰を避けられないし、ロシアに依存しすぎれば国家の独立性が保てず、国際社会からも孤立してしまう。

 

 内政については、「民主化、選挙の公平・公正化、言論の自由の拡大、汚職や腐敗の撲滅、人権尊重」等の改善が必要である。

  ***

 ◆メモ

 特にロシアからの影響が強い地域であり、ロシアの外交政策をよく知る必要がある。

 また、地域大国であるイラン、トルコがどのような指針を持っているかを知ることも、コーカサスを考える助けとなる。

 

コーカサス国際関係の十字路 (集英社新書 452A)

コーカサス国際関係の十字路 (集英社新書 452A)

 

 

『オウムと私』林郁夫

 著者はオウム信者であり、地下鉄サリン事件その他の犯罪に関与したため無期懲役の判決を受けた。

 本書では、生い立ちから、医者として働く生活、オウムへの入信、犯罪への加担までが書かれる。

 全編にわたって、オウムの細かい教義や、ワーク(修行)の説明が続き、大変分量があり、読むのは大変である。

 

 著者は、生きるとは何か、人生とは何か、世界に貢献するためには何ができるか、といったテーマを常に抱えていた。そのため、心臓外科医になったが、やがて阿含宗という新宗教に入信した。その後、オウムに移った。麻原も阿含宗にいたことがあったという。

 治療や手術を通して人を助けることでは満足できず、修行や宗教的な活動をとおして、精神的な救済を達成しようとしたようだ。

 

 しかし、決して無知ではない人物が、麻原のようなうさんくさい人物に帰依したのは不可解である。

 オウムへの出家を決心した著者は、病院を辞め、家族と一緒に出家した。

 その後、修行やオウム病院の経営(野方AHI)、選挙活動に励むうちに、組織が拡大していく。

 坂本弁護士失踪事件や、信徒のリンチ殺人、信徒の家族の拉致、サティアンでの異臭騒ぎ、サリン検出など、オウムの正当性を疑わせるような出来事はいくつもあった。しかし、著者は自分に暗示をかけ、オウムの活動や麻原に対する疑念を打ち払おうとした。

 

 著者が実際に関与したのは、野方AHIでの温熱治療(負傷者が出た)、ニュー・ナルコ(薬物を使った洗脳尋問?)、ポリグラフ検査(検査結果をもとに、スパイ容疑をかけられた信徒が殺害された)、假谷さん拉致への加担、地下鉄サリン事件でのサリン散布である。

 

  ***

・著者は、オウム真理教を、「教祖とその弟子集団」のイメージで見ていた。また、不当な弾圧を加える国家権力を想定し、初期キリスト教にイメージを重ね合わせていたのかもしれない。

 この本によれば、グルとその弟子とが個人的に奥義を授けるという形態は、チベット仏教ではよくあるものらしい。

・オウムの修行形態……麻原や教官たちが弟子を指導する形式から、手っ取り早く資格者(悟った者?)を増やすため、シールドルームでのヘッドギア電波・電気ショックによる悟り注入の形式へ(火傷が続発)。

・麻原たちは中国やチベットに研修旅行に行った。そのとき、麻原は自らを朱元璋の転生だ、等と告白した。

・麻原の武装組織方針……省庁制導入による指揮系統の整理、ロシアからの武器輸入、ロシアでの拠点構築、サリンやVXガスの製造など。

・オウム信徒は強烈な被害妄想にとらわれるようになった。

 麻原や村井、遠藤、中川、青山ら、幹部たちはサリン製造や殺人の事実を知っていたが、かれらは、「サティアンの近隣からサリン攻撃をしかけられている」、「国家権力が弾圧しようとしている」、「阪神大震災はアメリカの兵器による可能性が高い」、「創価学会がオウムをつぶそうとしている」等の陰謀論を垂れ流し、著者もそれを信じていた。

・麻原が著者を地下鉄サリン実行犯に命じた理由は次のように推定される。

 元々阿含宗での活動期間を合わせると、林は麻原よりも宗教的な造詣が深かった。また、医者としての知識を持っており、医学上のことについては麻原に反論した。

 また、池田大作を罵倒し、一般人を拉致する麻原の行動は、林が抱くオウム真理教のイメージ……「修行を通して精神的に救済し、その教えを人びと全体に普及させる」というものとかけ離れていた。

 麻原は、林に絶対的帰依が欠けていることを見抜き、過酷なテロを命じたという。

 

  ***

 地下鉄サリン事件後、自転車を盗んで逃亡したがすぐに捕まった。かれは当初、実行犯であるとは考えられていなかったようだ。麻原の黙秘指示や青山弁護士(オウム幹部)の組織論理に幻滅し、テロの全貌を自供した。

  ***

 

 ◆メモ

 ほかのオウム幹部と同じく、林もエリートの医師だった。

 本書を読む限りでは、かれは精神的な空虚や孤独につけこまれたというよりは、自発的にオウムの教義に賛同し入信したように感じられる。

 宗教的な過激派に入る者の多くは、社会で孤立しているか、個人的な問題を抱えている、という傾向がある

 アルカイダやジハード団の構成員の多くが、高学歴や先進国出身者で占められていたのと似ている。

 林は医師として勤務し、家族もいたが、外面からはわからない問題があったのだろうか。

 あるいは、オウム信徒よりも、麻原とその組織に根本的な問題があったという考え方もある。

 どんな人物であっても、多少非合理的な信仰を持つのはおかしいことではない。オウム幹部たちが信仰したのが、穏健な宗教ではなく、犯罪性を持つ武装組織だったことが決定的な違いだった。

 

 それでも、麻原の風貌や、空中浮遊、尊師マーチ、オウムアニメ、幹部や信徒たちの映像を見て、何も思わなかったというのは理解が難しい。これらを真面目に受け取って、感動し、帰依する人も存在する。

 世の中には自分とは考えの違う人たちもいるということを理解しなければならない。

 

オウムと私 (文春文庫)

オウムと私 (文春文庫)

 

 

『ネイティブ・アメリカン』鎌田遵 その2

 4

 ルーズベルト政権下、インディアン局ジョン・コリア―による「再組織法」→部族の自治権確立へ

 トゥルーマン政権下の「終結法」→自立を名目とした居留地切り捨て、アメリカ社会への同化政策

 先住民のうち居留地や信託地に住むのは4割で、5割弱は都市部に住む。

 先住民の経済的状況は悪く、現在でも青年の2割が帰還兵である。

 60年代、70年代におけるレッドパワー運動について。

 75年の「自決・教育援助法」により部族政府の自治権が強化された。また、先住民の学術研究を、先住民自身が行うという動きも生まれた。

 

 5
 先住民のイメージの変遷をたどる。

ジョン・フォードの西部劇……悪役、盗賊、野蛮の時代。

・「ダンス・ウィズ・ウルブス」……ロマン主義的なあこがれ。

・「ウィンド・トーカーズ」、「父親たちの星条旗」……「自分たちを侵略したアメリカという国家の一員としての愛国心を証明するために、戦地に赴かざるをえなかった先住民の苦悩」。

 先住民マスコット論争……赤、羽根飾り、「野蛮な戦士」のイメージ、体育とスポーツにおけるイメージの濫用

 ワナビー……先住民の現状を理解せず、ファッションだけを美化してまねるもの、工芸品を買いあさるもの。

 

 ――……多文化主義が称揚される時代、異文化に目を向ける人はふえたが、先住民に対する差別や政治経済問題を改善する積極的な姿勢は育まれていない、と手厳しい。

 ――近年においても、自己のアイデンティティを見つけられない白人が、その解決策として、自分のなかの「インディアン性」に頼り、ワナビーになる傾向がある。

 ――先住民とその文化は、空想や美化の対象になることがあまりにも多い。

 

 先住民からの収奪物を展示するスミソニアン博物館について、著者は一方的に切り捨てていない。博物館の姿勢は謙虚であり、また首都に展示品を集め多くの国民に歴史や事実を知ってもらうことには意義があるからである。

 博物館については、遺骨や展示品の返還問題が存在し、部族への返還も行われている。

 

 6

 先住民と居留地の現状について。

・政府から支給された食料品やファストフードの影響で、疾病率が高い。

アルコール中毒、ドラッグ中毒が多い。

・近年、先住民のギャングが増加し、居留地内で麻薬や犯罪を蔓延させている。メキシコ系ギャング等、外部からの侵入も多い。居留地の治安は、本土全体とは逆行し、悪化し続けている。

・外に出ても、人種差別や低教育・低学歴の壁に直面して帰ってくる例が多い。

 

 ――頭の良いインディアンは居留地からいなくなります。都会で失敗したインディアンはもどってきます。居留地から抜け出せない人たちは、おなじメンツと罵り合うばかりで出口は見えません。

 

 7

 居留地が望める経済活動は主に2つである。核廃棄物処理場や、実験場、軍の施設といった迷惑施設の誘致か、州法にとらわれない特性を利用したカジノの建設である。

 過去には、ウラン鉱山の開発や核施設の運営で多くの先住民が健康被害を受けてきた。

・迷惑施設の誘致をめぐって、通常居留地は分裂し、また世間の冷たい目にさらされる。

・カジノの規模は拡大しているが、部族ごとの格差も広がる。大規模カジノ部族員は、年2億円ほどの配当金をもらえる。

・カジノ利権をめぐって、部族内部で、部族員の認定を剥奪し配分を減らす動きや、他部族がカジノを建設するのを妨害するという活動が見られた。

・カジノの闇……部族員は働かず、配当金でギャンブルをする。雇用は白人と移民にとられる等。

 

 ――……連邦政府による法的な承認を拒否し、アメリカという枠組みを超えて、「先住民」という生き方をつらぬこうとする例は、ごく稀である。

 ――先住民がもとめているのは、文字通り、現在の州政府と同等の権利をもつ自治国家の建設である。それは一般的に考えられるような「独立国家」としてではなく、アメリカという国のなかで、自分たちの自治権をどう拡大していくかということである。先住民としての権利の主張は、アメリカ社会における多民族の共生を意味している。

 

  ***

 先住民に対する同化政策、先住民の現状について書かれた本。

 民主主義と自由という理念の裏側で行われている事実についてもわれわれは知る必要がある。

 

ネイティブ・アメリカン―先住民社会の現在 (岩波新書)

ネイティブ・アメリカン―先住民社会の現在 (岩波新書)