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うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『アウステルリッツ』ゼーバルト

 ジャック・アウステルリッツという建築研究者との交流について。

 アウステルリッツは、ヨーロッパ各地の建築や風景についてコメントしつつ、やがて収容所に連れていかれた母親の思い出を語る。

 本全体が人物の回想となっており、茫漠とした印象を受ける。

 ベルギーやロンドン、チェコの風景や公共建築についての所感から、やがてドイツ統治時代の非道な風景や、テレジエンシュタット収容所の建築様式、「管理」への執着、ドイツ人に対する恐怖感等が浮かび上がっていく。

 ヨーロッパの歴史は「奴隷帝国」ドイツによるホロコーストに結実した。

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 ――今では自分でも信じがたいのですが、私はドイツによるヨーロッパ征服についても、彼らの打ち立てた奴隷制国家についても、私が難を逃れてきた迫害についても、何ひとつ知らなかったのです……私にとって、世界は十九世紀末で終わっていたのでした。そこから先に踏み出すことは怖じていた。私の研究対象である市民社会の時代の建築史も文明史も、そのことごとくが、当時すでに輪郭を明らかにしつつあったあの災厄へと雪崩れこんでいくものであったにもかかわらず。

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 本の中に、内容とつながった写真が使われている。駅舎、廃墟、墓、工場、要塞の写真や、人びとの顔やふくろうの写真である。

 

改訳 アウステルリッツ (ゼーバルト・コレクション)

改訳 アウステルリッツ (ゼーバルト・コレクション)

 

 

『全貌ウィキリークス』 その2

 6 アメリカ外交公電が公開され、一般には秘匿されていた各国の政治的方針、取引、また米外務省職員による各国首脳の悪口等が曝露された。

 また、ヒラリー・クリントン国連や経済会議の場で盗聴、身辺調査をするよう指令を出していたことも明らかになった。

 合衆国政府は、外国の首脳や国連職員の健康状態、クレジットカード等の個人情報、ログインパスワード等の収集を命じていた。

 「アサンジは非合法活動に従事している」と政府は非難していたが、その足場が危うくなった。

 

 オバマ大統領らは、アサンジの活動に対して強権的な措置に踏み切った。各企業に圧力をかけ、ウィキリークスの利用するインフラ環境を停止させた。

 このことは、インターネットが自由な空間ではなく、企業や政府の取り決めによって成り立っていることを示している。

 その後、協力者や有志の尽力によりアサンジの身柄が米国に引き渡される事態は回避され、またウェブサイトも復活した。

 

 外交公電の曝露は米国政府とその周辺を激怒させた。

 合衆国はアサンジとウィキリークスを国家の敵と定めた。

 ――……米国の保守派は、アサンジをオサマ・ビン・ラディンにたとえ、世界規模での追跡を求めている。……ニュート・ギングリッチは、アサンジを「敵性戦闘員」にランク付けするよう求めた。「情報戦争も戦争だ。ジュリアン・アサンジは戦争を行っているのだ」とさえ言った。

 保守派のウェブサイトでは、「CIAがジュリアン・アサンジをもっと早くに殺害しておくべきだった」との書き込みが行われた。

 

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 国家の本質は情報の独占であるとされる。

 また、情報の独占、秘密の保持は、強権的な政治には不可欠である。

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 ウィキリークスとブロガーの問題について。

 ――ブロガーの問題は情報源がないということではない、と「クラウドソーシング」に期待していたアサンジは、明らかにがっかりした様子で言った。かれらは単純に、新たな事実を暴露するということには興味がないのだ。ブロガーにとっては、ちょうどそのとき話題となっているテーマについての見解を述べることだけが重要なのである。

 ――現在のウィキリークスは、伝統的なメディアと、デジタル革命なしではありえなかった、内容の検閲がおこなわれにくいということだけが取り柄のウェブサイトのあいだに位置する、いわばどっちつかずの存在である。

 

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 本書によれば、オバマ大統領はブッシュ以上に情報統制について強硬派であり、内部告発者への措置も過酷である。

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 他にもウィキリークス関連本はあるが、内容が似ているようで買う気がおきなかった。ただし、『ウィキリークスの内幕』は、アサンジと袂を分かった同僚が書いたものである。

 

 ◆メモと感想

 ジュリアン・アサンジは自らの技術を利用し、情報の民主化と報道による監視を実現するためにウィキリークスを創設した。

 民主主義国家においては、国民が正確な情報を把握しているということが大前提となる。正しい情報を元に、国民は政治判断を下すことができるからだ。

 情報通信技術は権力による抑圧手段ではなく、自由を確保するために用いられなければならないという点に賛同する。

 政府や権力を監視する機関は、必ず反撃を受ける。この反撃に耐えるためには経済的、政治的な基盤が必要である。しかし、基盤を確保するために企業や別の権力の庇護を受け、自由が失われる。

 永遠の課題は、報道機関に独立性が備わっていないことにある。

 ウィキリークス等の新しいメディアについても、活動存続のためには独立性を確保しなければならないのではないか。

 アサンジは理想的な報道機関の像を今でも信じている。いわく、大手の報道機関の死者はあまりに少ない。

 かれらはジャーナリズムを真面目に考えておらず、ジャーナリストと呼ばれることを恥と考える。危険地域の調査、取材は地元の特派員やフリーの記者に任せている。

 

全貌ウィキリークス

全貌ウィキリークス

 

 

ウィキリークスの内幕

ウィキリークスの内幕

 

 

『全貌ウィキリークス』 その1


 内部告発サイトであるウィキリークスと、その創設者ジュリアン・アサンジについての本。

 ウィキリークスはサイバー空間におけるセキュリティに対しても影響を与えた。

 

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 ジュリアン・アサンジの方針

 本書から読み取れるのは、アサンジが技術者であるとともに、強い主義主張を持った政治活動家であるということである。かれは秘密の情報を全世界に明らかにすることにより、権力の不正を告発する、という報道・ジャーナリズムの本来の目的を達成しようと考えている。

 伝統的なメディア、すなわちテレビ局や新聞は、政府や経済界との軋轢を避けるために、報道内容を事前に打診し、自粛するなど、報道機関本来の役割を見失っている。

 ウィキリークスは自分たちの活動の公開に際し、伝統的なメディアと協力しながらも、第5の権力としての任務をまっとうしようとする。

 アサンジはオーストラリアで生まれ、ヒッピーの母親に連れられて国内を転々とし生活した。コンピュータにはまり、ハッカー活動に熱中するようになる。

 やがて、独裁国家や大国が隠している情報を盗み出すことに意義を見出す。

 彼は、インターネットとコンピュータ技術が情報を民主化するという未来に希望を見出した。

 ――「舞台裏を見てみたい」というのが彼の動機だ。部外者の目に触れない情報が、彼にとっては戦利品のトロフィーだった。「極秘」レベルのデータや文書が目当てだったのである。「そこには解説抜きの、世界の真の姿がある。それは写真のように嘘がない」

 「ウィキリークス」設立の構想が進められた。ウィキリークス内部告発者を支援し、情報を精査し公開するためのウェブサイトである。ウィキリークスへの投稿については、投稿者の身元が保護されるような技術が利用されている。

 また、情報の信頼性、真実性を検証するために、アサンジに賛同するスタッフらが動員された。

 

 アサンジはカリスマ性を持つが独善的な人物として描かれており、このためウィキリークスに内部対立が起こり、離反者を生むことになった。

 ウィキリークスは、内偵者や密告者の保護のために情報の一部を秘匿することはあるが、それ以外は原則として無差別に公開することを方針としている。

 一方、同じ情報公開活動家の中でもアサンジらを批判する者たちは、個人情報の保護が軽視されていると訴える。

 

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 ウィキリークスの主要な活動

 1 ケニア等新興国の機密を公開した。このとき、告発者として疑われた外国人をケニア政府は暗殺した。情報公開とその行為に伴う責任を考える契機となった。

 2 ユリウス・ベア銀行、ドイツの情報機関は、公開された情報の撤回を求めてウィキリークスに圧力をかけたが、逆にそのやりとりも曝露されてしまった。

 3 技術要員として海兵隊に入隊したブラッドリー・マニングは、米軍がイラク市民とロイター記者2名を武装ヘリで殺害したビデオを秘密システムから持ち出し、ウィキリークスに手渡した。

 本映像は「コラテラルマーダー(付随的な殺人)Collateral Murder」ビデオとしてアサンジらによって編集を施された。

 マニングは自ら知人のハッカーに行為を打ち明けてしまい、通報により逮捕された。

 4 米軍の作成したアフガン戦争日誌を公開した。オバマ大統領の政府はウィキリークス及びアサンジを非難し、保守派はアサンジを逮捕すべきと主張した。

 5 イラク戦争日誌が公開された。この中には政府が隠ぺいしていた死者の顛末が記載されており、また、イラク軍による捕虜や市民の拷問、殺害を、米軍が黙認していたことも明らかになった。

 [つづく]

全貌ウィキリークス

全貌ウィキリークス

 

 

『現代アラブの社会思想』池内恵

 アラブ世界に共通するアラブ思想の袋小路について。

 

 1967年、第3次中東戦争の敗北により、パレスチナイスラエルに占領された。

 以後、マルクス主義過激派とイスラーム主義が勃興し、双方ともテロと暴力の温床となった。

 現代のイスラーム主義は、終末論に陰謀論とオカルト思想が混交している。アラブ諸国の書店や露店には、安っぽい陰謀論の本があふれかえっているが、かれらはこうした書籍を真面目なものと受け止める。

 世界の終末がやってきて、偽預言者ダッジャールたるアメリカとイスラエルが、またUFOと宇宙人が、人びとをだましおとしいれようとする、といった荒唐無稽な言説が、一般市民のみならず知識人や政治家、エリート層に間にまで広くいきわたっている。

 そこには、アラブ世界の問題はすべて外部の敵が原因だとする思考回路が垣間見える。

 

 アラブ諸国の政治家や官僚には、アラブ現実主義とでもいうべき実際的な思考の持ち主もいるが、かれらの政治に一般市民は参加できない状況である。

 結果、市民は過激なイスラーム主義や陰謀論、終末思想にはまっていく。

 

  ***

 セム教は元々、終末論と関係が深い。

 ユダヤ教は、真の救世主が来るまでに、偽の救世主やどちらともつかない救世主が無数に出現するだろう、と唱えることで、終末を引き延ばしている。

 キリスト教は、イエスが生まれたことで救世主が現れたが、さらにイエスが再臨するまでに間がある。
 イスラームは、原始的な終末思想を今も色濃く残している。来世は物質的、精神的、性的満足を満たす楽園として描かれる。一方、地獄はあらゆる苦痛を伴う世界である。

 こうしたイメージをイスラームは想起させる。

 

 終末を彩るものたち……偽預言者ダッジャール、ヤージュージュとマージュージュ(ゴグとマゴグ)、終末の獣等。 

現代アラブの社会思想 (講談社現代新書)

現代アラブの社会思想 (講談社現代新書)

 

 

『スローターハウス5』カート・ヴォネガット・ジュニア

 タイムスリップ、宇宙人、架空の作家といった道具を使い、第二次大戦における経験を伝える物語。

 主人公は自分の半生を次々に移動しながら、ヨーロッパで捕虜となり、ドレスデン空襲を目撃した思い出を語る。

 戦時中、人びとはみじめに死んだり、こっけいに死んだりする。ドレスデンのじゅうたん爆撃を受けた後、町は「月面」そっくりになっており、捕虜たちが地上を歩いて郊外に避難するあいだ、生きている人間はまったく見当たらなかった。

 戦争や人間の蛮行に対する強い嫌悪が感じられる。

 短い断章が繋ぎ合わされてつくられており読みやすい。「そういうものだ」、という台詞の繰り返しが印象的である。