うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『暴露:スノーデンが私に託したファイル』グレン・グリーンウォルド その2

 

 ――しかし、社会の自由を計るほんとうの尺度は、その社会が反対派やマイノリティをどう扱っているかということにあるのであって、「善良な」信奉者をどう扱っているのかということにあるのではない。……人はただ国家の監視に怯えたくないからといって、権力者の忠実な信奉者になるべきではない。

 ――つまり、民主党の政治家も共和党の政治家も、権力を追求すること以外には確たる信念もなく、節操のない偽善をおこなう傾向にあるということだ。……実際、いくつもの政府が昔からこの手を使って、自分たちの抑圧的な行為には眼をつぶるよう国民を言いくるめてきた。正しかろうとまちがっていようと、社会の片隅にいる取るに足りない人びとだけが抑圧のターゲットになるのであり、それ以外の人間全員にはそうした抑圧が自分たちに及ぶ心配など無用であり、そうした権力の行使を黙認し、支持さえできるよう信じ込ませてきた。

 

 監視の恐怖は、政府に従順な生き方だけを強要するようになる。

 テロ対策という弁解が蔓延し、政府の権能拡大が過剰におこなわれている。

 

 ――絶対的な肉体の安全を求め、プライバシーをないがしろにすることは、個人の健全な精神と生活に害を及ぼすだけでなく、健全な政治文化の弊害にもなる。個人にとって安全至上主義が意味するものは、自動車や飛行機に乗らず、リスクが伴う活動に参加せず、人生の質より長さを重んじ、危険を避けるためならどんな対価でも払うという、無気力と恐怖に満ちた生活だ。

 ――絶対的な安全というものはそもそも幻でしかなく、どれだけ求めても手に入らないものだ。

 

  ***

 第4の権力である報道機関は、実際は政府及び大企業のパートナーである。

 かれらの出自は同じ富裕層、高学歴であり、人材交流も盛んである。

 合衆国における新聞社やテレビ局は、内部告発をする場合あらかじめ政府の許可を得る慣習がある。政府の意向に反する報道をした場合、様々な措置をとられるからだ。

 スノーデンの内部告発をもっとも真摯に受け止め記事にしたのはイギリスの「ガーディアン」だった。

 内部告発後、合衆国のメディアの中から、スノーデンを負け犬、異常者、情緒不安定の者として誹謗中傷する者が多く現れた。また、根拠なく中国やロシアのスパイであると断定する主張が唱えられた。

 スノーデンに協力した報道関係者は犯罪者の扱いを受けなければならない、と一部のニュース関係者は言った。

 

 ――……ジャーナリズムはどのような形であれ、どうしてもなんらかの勢力に与することになる。……意見を持たないジャーナリストなど存在しない。自分の意見を率直に表明するジャーナリストと、自分の本心を隠し、まるで意見を持たないかのようにふるまうジャーナリストがいるだけのことだ。

 英国の政府通信本部は「ガーディアン」に対し法的措置を行った。新聞社にやってきた通信本部職員は、社が受け取った機密書類のデータを粉砕させた。

 

  ***

 スノーデンは、憲法の理念に基づき、市民の自由とプライバシーを守るために行政府の行為を告発した。

 政府とその利益共有者たちは、テロ対策の名のもとに、無制限の権限を行使している。しかし、わたしたちは名目に中身が伴っているのか、実効性があるのかを検討しなければならない。

 このような行為は、事なかれ主義の生活だけを守ろうとしていては絶対に達成することができない。そのような生活に、自分の理念や信条はなく、ただ政府や権力保持者に付き従う習性があるだけである。

 

暴露:スノーデンが私に託したファイル

暴露:スノーデンが私に託したファイル

 

 

『暴露:スノーデンが私に託したファイル』グレン・グリーンウォルド その1

 元NSA(合衆国国家安全保障局)職員のスノーデンが、NSAによる違法な国民監視活動を告発する。

 現行憲法は国民のプライバシーを保障しているが、NSAはこれに違反した行為を秘密裏に実施していた。

 建前上は、外国諜報活動監視裁判所の許可を得た対象のみ、通信電子監視が行えるということになっているが、スノーデンの持ち出した文書からは、この裁判所が書類手続きにすぎず、実際は無制限の監視ができる状態にあることが理解できる。

 

 主な行為については以下のとおり。

・IT及び電信企業(ベライゾン、AT&T、グーグル、マイクロソフトフェイスブック、ヤフー、シスコ等)に命令を出し、すべてのアメリカ国民の通信記録、通信メタデータを提出させ、収集、分析対象とした。

・合衆国の主要箇所に設置されたインターネットインフラの要衝に器材を設置し、通過するデータを傍受した。

・国産のネットワーク機器を押収し、データ収集のためのプログラムを不正に取り付けて国外等に輸出した。

・外国人及び外国首脳、国際的な経済会議、ブラジルの石油企業等の通信を傍受した。なお、外国人については令状なく通信記録を収集することが可能である。

 

 このような行為は、NSAが大量に外注した民間企業と、提携企業とのチームワークによって行われていた。NSA幹部は、「全てを収集せよ」との方針に基づき、合衆国民のみならず全世界の通信を掌握することに努めた。

 NSAの主な協力国は「ファイブ・アイズ」と呼ばれるアングロ・サクソン諸国……英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドである。しかし、一部の情報は国外秘である。

 その他、ヨーロッパ諸国やイスラエル、日本、インド等も関与しているが、こうした第3国は同時にNSAの監視対象でもある。

 

  ***

 スノーデンはIT技能を生かしてNSAやCIAで勤務するうち、合衆国の政策が憲法の理念に反しており、また国民の自由と権利を脅かすものであると確信するようになった。

 現代人はインターネットによって自己の生活を実現しているが、その自由が失われようとしていることにスノーデンは危機感を抱いた。

 リーク記事の発表後、スノーデンは合衆国から追われる身となった。また、内部告発に協力した新聞社やジャーナリストも当局の捜査を受けた。

 政府は、対テロ捜査のために国民監視はやむを得ないとの見解を発表した。しかし、それまではこの事実を否定していた。

 スノーデンの告発は大きな反響を呼び、NSAの活動は非難された。

  ***

 なぜ国民監視システムは自由と民主主義を重んじる社会にとって害悪なのか。

 第1に、政府がどこでも監視、傍受することができるという意識は、それだけで国民の自由な発言や思想、活動を委縮させる。実際にユビキタス監視が行われているかどうかは問題ではない。そうした監視が存在するという思いが脳裏にあるだけで、人間は自主規制を行うようになる。

 第2に、対テロ捜査の対して実効性があるかどうかに疑問がある。テロリスト関係者に対し個別の監視をつけるのは有効である。しかし、NSAの「PRISM計画」のように、無制限に全通信記録を収集することは、重要なデータを見落とす結果につながる。

 NSAの監視システムが存在するにも関わらず、ボストンマラソンのテロは防げず、その他のテロもまったく検知できなかった。

 第3に、行政府が無制限の権能を持つことにより被害を受けるのは、テロリストや反社会性組織だけではない。

 FBIはかつて公民権運動家や左翼、反体制右翼等を監視していた。

[つづく]

 

暴露:スノーデンが私に託したファイル

暴露:スノーデンが私に託したファイル

 

 

『エル・アレフ』ボルヘス

 歴史、神話、アラビアの哲学や神学を題材にしたボルヘスの短編集。

 古代ローマ、中世と舞台は様々である。「円環」と紹介されている通り、無限、時間の繰り返し、ループを適用された話が多い。

 「不死の人」は、古代の旅人が不死の人びとを発見し、自らも不死の体験をする話。

 「タデオ・イシドロ・クルスの~」では、主人公の過去が反復される。

 「アステリオーンの家」、「二人の王と二つの迷宮」、「エル・アレフ」では、現実に無限回廊や無限迷路、全宇宙を凝縮した特異な一点が登場する。

 ボルヘスは南米の無法者と遊牧民たち、ガウチョたちにも関心を持ち続けた。

 「死んだ男」は典型的な悪党の話。

 「神学者」は古代のキリスト教宗派を巡る争いの話だが、最後はドッペルゲンガーを連想させる。

 

 歴史、古典からの引用が多く、話の展開も百科事典のように圧縮されている。それは参考になるが、退屈な話もある。

 ボルヘスの作品では「トレーン、ウクバール、~」や「バベルの図書館」、「バビロニアのくじ」等、哲学的なパズルを取り入れたような話が一番気に入っている。

 この本ではそうした作はあまり見られない。

エル・アレフ (平凡社ライブラリー)

エル・アレフ (平凡社ライブラリー)

 

 

『ルポ 貧困大国アメリカ2』堤未果

 オバマが大統領となった時期に出た本。

 読んだ印象では前作以上に感情的な本で、アメリカの悲惨な実態が列挙される。

 全く知らなかった問題もあるので参考にはなる。

 

 1 公教育

 アメリカにおける大学の学費は70年代から上昇していき、現在は大半の学生がローンを組んで学費を賄っているのが現状である。

 かつては数十万円の学費で大学を卒業できたが、今は、一般的な大学でも300万~400万、アイビーリーグであれば年間1000万以上が必要である。

 大学に入る際にもっとも重視されるのは親の職業や年収、家柄である。

 学資ローンは、住宅ローン以上に深刻な問題となっていた。

 サリーメイと呼ばれる民間ローンが政府ローンを締め出し、学生たちは高利のローンを借りて大学に通う。

 大卒でなければ、マクドナルドのような仕事で一生食いつなぐことになるからである。しかし、ローンの支払ができず多重債務者になる人間が続出している。

 著者によれば原因は新自由主義にあり、政府が教育費を削減し、ローンや大学を民営化したことで起こったという。

 

 2 社会保障

 アメリカにおいては伝統的に小さな政府の指向が強く、公的年金は抑えられてきた。代わって企業が年金制度により退職者の老後を保証してきたが、市場の変化や少子高齢化により制度が崩壊した。

 また、公的年金制度もすでに破たんが確実である。

 身の丈に合わない消費をする、貯蓄をしない、目先の利益を重視して長期的な考えを持たないというアメリカの慣習が問題を悪化させていると著者は考える。

 

 3 医療改革

 医療保険会社と製薬会社による医産複合体が強い力を持っているために、アメリカの医療費、保険料は高く、国民の6人に1人が無保険である。医療費の高さにより破産する人間も多い。

 欧州や日本で施行されている国民皆保険制度の導入がこれまで検討されてきたが、議会や圧力団体の反対により頓挫してきた。

 メディケア、メディケイドは障害者、低所得者向けの掛け金なし、または低掛け金の公的医療保険制度である。しかし、財政を圧迫している。

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 本書ではオバマケアの顛末は書かれていないが、ニュースを調べたところ次のとおりだった。

 オバマケアは成立の過程で保険会社、製薬会社の介入を受け、「民間医療保険の強制加入制度」となった。保険会社は保険料を釣り上げたために、医療費はさらに増大したという。

 

 4 刑務所

 90年代から民間刑務所が増え始め、また刑法の改正等により囚人の数も増やされた。

 囚人は低賃金労働力として重宝され、さらに刑務所での生活費用も請求され、借金まみれとなって出所する。

 スリーストライク法により、3回有罪判決となった者は終身刑となる。企業は民間刑務所への不動産投資と、囚人労働力を歓迎する。

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 スノーデンが訴えたのと同様、オバマ大統領への疑念はこの本でも追求されている。

 アメリカの問題の根底にあるのは、著者によれば政府と企業の癒着である(コーポラティズム)。

 

ルポ 貧困大国アメリカ II (岩波新書)

ルポ 貧困大国アメリカ II (岩波新書)