うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

「心」についての感想

 ◆心をきたえる

 山岸俊男著『「日本人」という、うそ』を読んでいたところ、同じく進行中のラインホルド・ニーバー『道徳的人間と非道徳的社会』と、重複する主張があった。

 

 山岸氏は心理学者の立場から、現代日本の社会問題について、「日本人の心の堕落」や「日本人らしさの喪失」が原因だとする説に反論する。同じく、「日本人のメンタリティ」が日本の停滞の原因だとする説にも反論する。

 いわく、心=脳は他の内臓器官と同じく動物進化の産物であり、特定の傾向や機能を持つ。これが、人間が本来備えている「人間性」である。

 

 人は社会問題の原因を人の「心」のせいにしがちである。それは精神論で戦争に勝とうとした日本軍の過ちと同じである。

 そして私自身も、自分たちの劣化した心を、教育がすべて解決してくれると考えがちである。

 

 ……いくら国民に徹底した倫理教育を施したところで、「いい国」、「美しい社会」など生まれないということは歴史が証明しているからです。……20世紀において国民に対する倫理教育・道徳教育に最も熱心だったのは旧ソ連や中国といった社会主義国家でした。

 

 

 ◆北朝鮮国民は大人しく従順な心の持ち主か 

 以前読んだ著者の本とも重複するが……

 日本人が一般的に集団主義的といわれるのは誤りであり、実は個人主義的だが、日本社会に適応するために集団主義的に振舞っているに過ぎないというのが著者の主張である。

 

――「日本人は自分たち日本人のことを集団主義的な傾向があると考えているが、ただし「自分だけは例外」と考えている集団である」

 

 我々は個人主義的であるにも関わらず、日本社会が個人主義者を排除するだろうと考えて、集団主義的に振舞っているのである。

 複数の実験が示す結果は、日本人がある面ではアメリカ人以上に個人主義的で一匹狼であることを示している。また、日本人はアメリカ人よりも基本的に他人を信用していなかった。

 そしてこの結果もまた、日本国籍を持つ人間とアメリカ市民との、「心」という器官の違いではなく、社会環境の違いに由来する。 

 

心でっかちな日本人―集団主義文化という幻想

心でっかちな日本人―集団主義文化という幻想

 

 

 心理学をベースに論を広げているため素人には読みにくい部分もある。

 

 

 ◆ニーバー

 神学者のニーバーも、啓蒙主義者や社会学者が見落としてきた点として、「人間が動物のひとつであり、動物的な欲望や利己主義に支配されている」ことをあげる。

 興味深いことに、ニーバーは進化論を引用し、人間が動物的な行動から解放されていないことを強調している。

 かれは、道徳家・社会学者や宗教家について、人間の道徳心や倫理に訴えることで社会問題を解決できると安易に考えていると批判する。

 

 

 

 ◆いじめ

 社会や組織の問題を解決するには、心がけを改めさせるのでなく環境や条件を変えることが不可欠である場合が多い。

 去年読んだ内藤朝雄『いじめの構造』で提示されていた解決策は、学校そのものの環境を変えるというものだった。

 

・クラス制の廃止

・学校への法の導入(治外法権廃止、加害者の処罰(放校など))

 

いじめの構造―なぜ人が怪物になるのか (講談社現代新書)

いじめの構造―なぜ人が怪物になるのか (講談社現代新書)

 

 

 

 ◆ある(元)兵隊風公務員の偏見

 実効力のある方策を考えるのは困難なので、心や道徳、団結、コミュニケーションといったあいまいな方向に行く傾向がある。

 

 昔、わたしが基地で働いていたとき、自殺や服務事案(飲酒運転、窃盗、盗撮など)が発生すると、全部隊員が8時間、10時間ぶっ通しで討論させられた。

 そこで出てきた結論は今振り返るとあまり賢いものとは思えない。

 

・自殺予防→職場の飲み会を増やす、カウンセリング担当者の配置(アサインされるのはパワハラ班長

・隊員の借財発覚→職場の飲み会を増やす、独身者の家を定期的に点検しキャバクラ等に貢いでいないか確認(独身者から不満噴出)

・盗撮・窃盗その他→職場の飲み会を増やす、外出制限

・飲酒運転→隊員の飲酒・飲み会自粛(実効性ゼロ)、警察の教育資料「日高の遺書」を全トイレに掲示

 

 ※ 「日高の遺書」は、地元の警察署から人を呼んで基地内で交通安全講話してもらうときに出典を聞いたところ、フィクションですという回答を受けた。

 

自衛隊の闇: 護衛艦「たちかぜ」いじめ自殺事件の真実を追って

自衛隊の闇: 護衛艦「たちかぜ」いじめ自殺事件の真実を追って

 

 

 

 ◆図書案内修正

the-cosmological-fort.hatenablog.com

 

メノウの時代のころ

 メノウの時代のころには

 雲はつぶれて

 蜂の巣形状の

 がれきから、

 普賢の頭部が

 浮かび上がったものだ、

 日をあびて。

 

 人びと、そのまわりを

 埋めつくすように

 豚と牛の群れ、

 森のなかから

 頭の上に、金貨をのせて

 号令をかけた。

 
 金貨の表面にある

 あわれみの顔を

 わたしたちは見た。

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安永4年の戦略爆撃

 ◆花火

 きょうは独立記念日ということで、無職戦闘員の近所でも打ち上げ花火が開催されていた。

 バルコニーには、星条旗を頭にさしたハタ坊風の人たちがたくさん詰めかけていた。

 iPhoneで花火を撮ってみたが画質が非常に悪い。

 

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 ◆トランプのスピーチ

 トランプは就任以来、フランス風の軍事パレードをやりたいといって周囲の高官らを困らせてきた。

 大日本帝国にも劣らない軍国主義アメリカだが、興味深いのは、軍事パレードに対しては一貫して懐疑的だったことである。

 かれらによれば、首都で実施されるような大規模軍事パレードは、北朝鮮社会主義国のような権威主義体制を想起させるものだという。

 

 ハワイでも、真珠湾攻撃の日などに記念パレードが行われる。しかし主役はオープンカーに乗った退役軍人や地元の高校生であり、現役軍人はパレードの中盤に出てきて、リラックスした様子で歩くだけである。

 ドイツ国防軍のグースステップや、北朝鮮のような統制の美は皆無である。

 

 なお、米軍では昇任するために様々な奉仕活動への参加が必要である。このため、ゴミ拾いからホームレス用寄付用品集め、パレード参加まで、常に参加依頼メールが流れてくるという。

 祝日のパレード参加もこうしたボランティア活動の一環である。

 以前流れてきたボランティア募集メールでは、「ハワイの美しい海岸をゴミから守りたい軍人、また勤務評定の空欄を埋めたい者はぜひ参加しよう」と露骨に書いてあったので笑った。

 知り合いの軍曹が、とある司令部の下士官先任を見かけたとき、「あの人はいったいどれだけのボランティアに参加したのかな」と笑っていた。

 

 

 今年の独立記念日は、首都近辺で軍を動員し様々なパフォーマンスが行われた。

 ツイッターを見ていたら、トランプ大統領の演説が話題になっていた。

 

 

 ――「アメリカ陸軍は独立戦争時、要塞を打ち破り”空港を奪取した”」

 

 ――「この65年間、敵の空軍はただ1人の米軍人も殺せなかった。空はわたしたちのものだったからだ」

 

www.theguardian.com

 

www.huffpost.com

 

 このような単純な事実誤認がもはや普通のことになり、指摘する方が逆に大人げないように聞こえてしまうのがアメリカ大統領の実態である。

 

 

 ◆シリア、イラン付近

 最近、ISISの起源をテーマにした『Black Flags』を読み終わった。

 

Black Flags: The Rise of ISIS

Black Flags: The Rise of ISIS

 

 

 引き続き、シリアとイランの歴史についても調べたいと思い、次の本を読むことにした。

 

The Morning They Came for Us: Dispatches from Syria

The Morning They Came for Us: Dispatches from Syria

 
We Crossed a Bridge and It Trembled: Voices from Syria

We Crossed a Bridge and It Trembled: Voices from Syria

 
Revolutionary Iran: A History of the Islamic Republic (English Edition)

Revolutionary Iran: A History of the Islamic Republic (English Edition)

 

 

 はるか昔、学校でアラビア語の授業をとったが、まったく身につかなかった。面白い授業だったが、自分で勉強し、継続しなかったのが原因である。

 授業を担当していた女性教授が「シリアは中東のなかでもとても平和で治安のいいところだが、それは外国人にとってだけです」と、ぼそっとつぶやいたのを今でも覚えている。

 おそらく昔日のシリアの平和は、ソ連が文化人を招待し披露した理想郷と同じ類のものだったのだろう。醜い拷問や処刑は人目につかないところで行われるから、我々のような部外者には、住民の憎悪や反感が察知しにくいのだろう。

 

 

 ◆人さらいと「共産スマイル」

www.youtube.com

 

 うすら寒い動画が出現し、元職を中心に文句で盛り上がっている。

 カンボジアの虐殺収容所博物館を訪問したとき、クメール・ルージュ時代のプロパガンダ写真が展示されていた。上の動画を見て、ポル・ポトを賞賛する子供たちの満面の笑顔を連想した。

 

 

 新兵の募集を担当する地方の本部は主に陸軍が牛耳っており、配属されたわたしの知り合いは毎日陸軍に嫌がらせされて、ほとんど対象年齢のいない地区での勧誘ばかりさせられた。

 リクルート活動中は、仕事中に休憩できないようにオリーブ色のジープを運転させられたという。一方、羽振りのいい陸軍の人たちは目立たない乗用車に乗ってよく食事やコーヒー休憩をとっていた。

 

 リクルーターは新兵を送りこめないと原隊に帰らされるのでなりふり構わず嘘をつく。

 柔道の選手になれる、音楽隊要員になれるとだまされて入ってきた若者を何人も見てきた。

 

 程度としては、ネットで話題になるようなブラック企業や、ホスト等の水商売、暴力団よりは労働環境はいいかもしれない。本当に運が良ければよい職場・人間に恵まれるかもしれない。

 暴力団と違って、今は、暴力行為(殴る、キングファイルやバインダーを投げつける、格闘で意図的に骨折させる等)は、運が良ければもみ消されずに処罰してくれることもある。

 

 当該組織は、人が集まらず大変な様子である。そもそも子供の数が減っているから当然のことともいえるが……。

 

 組織の欠陥や予算不足を補うために、独身者や若者は残業や休日出勤で滅私奉公することになる。管理職や組織の職務怠慢のために人生を犠牲にするのが正しい愛国心の発露である。

 わたしの兵隊人生の最後のほうでは、18歳か19歳の新人が毎晩11時まで残業させられているのを見ていた(私は無職になる手続きをしていた)。さらに、その若者は会計・給与計算担当だったので皆から馬鹿にされていた。

 歴戦の船乗りを名乗る少佐級の人物は、自分がいままで何人の部下を精神疾患にしてきたかを自慢していた。

 

 当該動画に騙されて入る人がいるかは知らないが、かえって失望したアンチを増やすことになるのではないだろうか。

 Youtubeのコメントでも、珍しく愛国烈士の信仰告白が見られず、批判が大部分なのが興味深い。