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うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『しろばんば』井上靖

親類の老婆の家に預けられた子供についての話。伊豆半島の田舎が舞台である。 作者の小説には、いじめっ子に対して卑屈にならず勇敢に立ち向かう人物がよく登場する。無口であっても石をもって暴れ出す姿を見て、主人公は自分の卑屈さ、弱さを反省する。 育…

『出発は遂に訪れず』島尾敏雄

「日の果て」 「です・ます」の丁寧語を用いているので、牧歌的な印象を受けた。 ガジュマルの生息する島に、軍人たちがやってくる。彼らは洞窟に魚雷艇を隠し、特攻の命令を待つ。もっともおもしろい場面は、中尉が崩れた土嚢の修理を命ずるが、部下に陰口…

『神州纐纈城』国枝史郎

「しんしゅうこうけつじょう」 武田信玄の配下の1人、土屋庄三郎は、蒸発した父親を探すため富士山麓に向かう。そこには洞窟に住む教団と、人間の生き血を絞り布をつくる纐纈城とがあった。 土屋庄三郎は教団に帰依する。一方、富士三合目に潜んでいた殺人…

『極秘捜査』麻生幾

オウム真理教と警察・自衛隊の戦いを題材にした本。 松本サリン事件発生時、オウムはまだ危険な組織として認識されてはいなかった。信者たちのおこす拉致事件等を通じて、徐々に犯罪組織としての実態があきらかになる。 オウムの企画した化学兵器テロは、世…

『続・入沢康夫詩集』

全体をとおして非現実の印象をうける。 わが出雲……古い文体のことばと、島根県をおもわせる風景と、非現実的な印象がならべられる。ページの構成が、20世紀はじめの実験を連想させた。 形式は部位によってばらばらで、出雲ということばでかろうじてひとつ…

『神聖喜劇』大西巨人

日本軍での営内生活を題材にした戦争文学。大西巨人は独特の硬い文体と古典の引用が特徴であり、他にも『精神の氷点』や短編集等おもしろい本がある。 主人公東堂太郎は補充兵として招集され新隊員教育を受ける。入隊から卒業までのまわりの人間とのやりとり…

『おろしや国酔夢譚』井上靖

伊勢から漂流してアムチトカ島にたどりついた大黒屋光太夫たちは、ふたたび日本に帰るために極東ロシアを旅する。 アムチトカ、カムチャッカ半島、オホーツク、イルクーツクと移動するたびに仲間たちが死に、帰国をあきらめる者、現地で暮らそうと決心する者…

『蒼き狼』井上靖

チンギス・カンの誕生から死亡までを書く本。 チンギス・カンは、小さなころから、無口でおとなしいが暴力的な子供として書かれている。この本では、かれは出自のあやしい人間である。母親と父親のあいだに生まれたのか、または、母親が別の部族の男に暴行さ…

『近代能楽集』三島由紀夫

この作者は昔いくつか読んでよくわからなかったのでそれ以来まったく読んでいなかった。この本や、「わが友ヒットラー」等の戯曲は抵抗ないが、小説は文章が好みに合わないので回避している。 能を、近代風に改造した作品集。 どこかできいたことがある話と…

『魚雷艇学生』島尾敏雄

予備士官学生として海軍に志願し、魚雷要員として配属後、特攻モーターボート「震洋」隊の指揮官に任命されて発進基地に移動するまでを回想する。 この本は40年後の本人が当時を回想するという形式をとっている。 教育隊での生活、体操など、とくにかたよ…

『新麻雀放浪記』阿佐田哲也

――「だって、あんた、買い物に来たんでしょ」 「いや、煙草を奪りにきたんだよ」 「そりゃア困るね。冗談ごとじゃすまない。あんた、煙草1箱でも、物を奪りゃ、泥棒ですよ」 「物を奪っちゃ、いけねえのか」 「いけねえのか、って、酔ってるわけでもないん…

『ほんまにオレはアホやろか』水木しげる

落ちこぼれ扱いをされて生きてきた作者の回想について。水木氏は子供のときから落第生で、戦争では片腕をなくし、その後は漫画家を目指して貧乏な生活を続けた。しかし、死なない限り暗くなることはないという。 戦争で片腕を失った水木氏の戦争観に対して、…

『戦艦大和ノ最期』吉田満

戦記文学で有名なもの。全部カタカナで、覚書を思わせる形式を使用している。始めは読みにくいがすぐに慣れた。 「コレガ俺ノ足ノ踏ム最後ノ祖国ノ土カ、フト思フ」。 大和は呉を出て周防灘を過ぎ沖縄の本島周辺米軍上陸地帯へ向かった。 通信士中谷少尉はア…

『輝ける闇』開高健

ベトナム戦争を題材にした昔の日本文学で、主人公のインテリの苦悩よりは、ベトナムの様子や戦場での生活の方が印象に残った。 日記体と客観的な叙述が混ざったような形式のフィクションである。 従軍記者の私と、アメリカ兵、それに寺の坊主(ボンズ)。南…

『ベトナム戦記』開高健

釣りの本で有名な作者がベトナムを取材して書いた本。 北ベトナムと南ベトナムの内戦にアメリカが加担したのがベトナム戦争である。主戦地は農村地帯なので開高の滞在するサイゴンやフエは比較的安全だった。それでもテロやデモが頻繁におこる。 ベトナム人…

『ミンドロ島ふたたび』大岡昇平

『レイテ戦記』に続けて読む。 ミンドロ島ふたたび 一九五八年、遺骨回収船『銀河丸』の出航に同乗しかつて配属されたミンドロ島を訪れる。日本人は負けたにもかかわらず豊かになっていた。ミンドロ島やレイテはまだ反日感情が根強い。そのため大岡はかつて…

『レイテ戦記』大岡昇平 その3

オルモック陥落によりレイテ決戦は中止になる。このときの大本営は服部卓四郎、武藤章などのちの戦犯が占めているが彼らはレイテの責任を専ら南方総軍に転嫁した。米軍のレイテ上陸にともない特攻作戦がたてつづけにおこなわれるが、米船団はこれに備えて駆…

『レイテ戦記』大岡昇平 その2

意外なことに大岡は特攻隊を作戦の面からも称賛している。 「神風特攻は敵もほめる行動である」。 レイテ沖海戦から特攻は開始されたが沖縄戦のときには命中率は7%まで低下していた。 ――自分の命を捧げれば、祖国を救うことが出来ると信じられればまだしも…

『レイテ戦記』大岡昇平 その1

牧野四郎ひきいる第十六師団はレイテ島の防衛にあたる。米軍がルソン島攻略をするつもりならここからはじまるはずだという。 フィリピンはマゼラン殺害からゲリラの長い歴史をもつ。米西戦争でアメリカ領になり形式的には民主主義国になったが実態は資本家の…

『草のつるぎ』野呂邦暢

『諫早菖蒲日記』も書いている作者の最初の本。日本文学にありがちなくどい文言やうっとうしい理屈が無いので読みやすかった。 入隊して三週間の新米自衛隊員が語り手となり、報告調の休日報告からはじまる。写実的な、無味乾燥に近い文章だが主人公海東二士…

『色川武大・阿佐田哲也全集Ⅰ』

怪しい来客簿 戦中の中学校時代から終戦直後の生活までおもいでを語る。力士、同級生、教師、出版業に勤めていたときの同僚、自分の思うとおりに行かないでそのまま死んだ人間が多くいた。色川はつねに自分の原理にしたがって生活しそれに運良く成功した。 ―…

『うらおもて人生録』色川武大

色川武大は麻雀の本も含めてほとんど読んだ。麻雀プロとしての経歴が有名だが、若いときから作家志望だったらしく賞などに応募している。 戦時体制下で彼は中学を無期停学になり、ニート生活をはじめた。運は結局原点(ゼロ)に戻る。実力は負けないためのも…

『信長・イノチガケ』坂口安吾

イノチガケ 切支丹の話。スペイン系フランシスコ会とポルトガル系ゼズス会の対立、サン=フェリペ号のスペイン人は太閤をおこらせた。殉教者の続出。スペイン皇帝領から独立したオランダ人ウィリアム・アダムズ、イスパニア人の交渉等、日本は帝国の紛争地帯…

『龍陵会戦』古山高麗雄

『アーロン収容所』からのビルマつながりで読む。 「勇」師団管理部衛兵隊に配属された主人公は弾薬運びとなる。前作とは異なり今作は著者自身が主人公という私小説の体裁をとっている。龍陵会戦を体験した東北出身の「勇」師団の兵たちに取材する。 古山氏…

『断作戦』古山高麗雄

古山戦記三部作のはじめ。騰越作戦で生き残った芳太郎について。中国戦線での雲南もまた激戦区であったらしい。これは小説だから書き手は古山ではない。 落合一政は、従軍経験者と親交を結ぶうち、詩人である吉田に戦争体験の手記を書いてみないかとすすめら…

『笛吹川・甲州子守唄』深沢七郎

笛吹川は戦国時代の武田氏のもとで生きる農民を、甲州子守唄はおそらく戦前から終戦までの、山梨の農民の生活を描く。 笛吹川では、百姓は力をもつ武士に翻弄される。昔から武士に斬殺されたりと怨みしかなかったにもかかわらず、若い息子たちは「先祖代々お…

『生きている兵隊』石川達三

南京攻略にむかう日本兵たちのすがたを描く。国家の問題に動員される人間はさまざまである。開高健にも取り上げられていた僧兵から、現実と妥協することのできるインテリまで、人間の性質は多岐にわたる。 ほとんど過去形しか使われておらず、特定の人物に視…

『短編小説傑作選』邱永漢

「濁水渓」 台湾統治の情景、内地人(日本人)と本島人(台湾人)との関係が詳しく描かれる。日本がかつてれっきとした宗主国であったことに気付かされた。 たしかに展開が散漫で文も印象には残らないが、政治変動のもとで生きる人びとが克明に解説されてい…

『野呂邦暢・長谷川修往復書簡集』

ボルヘス『不死の人』を二人とも評価している。リアリズム、日記文学からの解放を目指していたようだ。 芥川賞が文学を志す人間の登竜門であり、原稿料で生活することで作家になれる、また書き手に不足している時代だった。 リアリズム・私小説派と反リアリ…

『紙の中の戦争』開高健

「塹壕の中のことは語らない」ということばにあるように、戦場は本来極度に言い表しにくいものである。 開高はわたしと大分異質な人間なのか、読んでいると頻繁にひっかかる。つねに感心しうなづきながら読める文章があるとすればこちらはその反対である。か…

『口奢りて久し』邱永漢

『中国の旅、食もまた楽し』につづく邱永漢の料理本。 ――進化とは、違った角度から見れば退化のことだから、これは無理からぬことかもしれない。ちょうど自動車が普及すれば足は退化するように、自分で料理する必要がなくなれば、舌も退化する。アメリカ人が…

『中国の旅、食もまた楽し』邱永漢

大陸の中華料理にこだわったエッセイで、自分のいってきた場所も紹介されている。ウルムチ、トルファンあたりの観光ルートはわれわれが行ったのとそっくりそのままで、あれほどの僻地においても観光業が確立しているのだとおどろかされた。 香港は邱永漢によ…

『続・春日井建歌集』

「白雨」 「未青年」にあったような鮮烈さ、血の匂いはなく、前に読んだ歌集の、後半部と同じく、枯れた調子の歌が並んでいる。 ――降る雨は光あまねく充ちてゐる空をぬけきて木立をぬらす 水墨画のような、白黒の風景と、淡い光線、白くぼうっと輝く雲をおも…

『塚本邦雄歌集』

戦後短歌の有名な人の作品を集めたもの。細かいこと……『透明文法』、『水葬物語』、『装飾樂句(カデンツァ)』、『緑色研究』など。 「透明文法」…… 無風景の、言葉の奇抜な組み合わせを重視した歌が多い。春日井建のような情緒はない。旧字体が印象に残る…

『敦煌』井上靖

人間の戦争と転変を、雲の上から眺めているような静かな歴史小説である。 主要な人物は三人、科挙に落ちて西域に流れた趙行徳、西夏漢人部隊の将、朱王礼、亡びた王朝の末裔である尉遅光(うっちこう)である。 趙行徳は、ウイグル王族の女を犯すとき、西夏…

『フーコン戦記』古山高麗雄

九州在住の老人が、自分の従軍したフーコンについての思い出を滔々と語る。 彼はビルマのフーコンに送られ、そこで激戦を経験したが、このことはあくまで彼個人の体験にすぎない。個人の体験にすぎないものを、平和のため、反戦のためという名目で喧伝したり…

『ロンドンの味』吉田健一

本の解説や雑誌の短評、全集に織り込まれた評論などをジャンル別に集めたもの。第一部が料理関係の雑誌『あまカラ』などに掲載した食や名産品などにかんする文章、第二部、第三部はおもに英文学について、第四部は日本文学についての文章を扱う。 *** 吉田健…

『春日井建歌集』

「未青年」の序が趣があってよい。 ――少年だつたとき 海の悪童たちに砂浜へ埋められた日があつた ……ああ日輪……ぼくの真上には 紫陽花のような日輪が狂つていた 序、本編の歌にも、太陽の出てくることが多い。 ――太陽を恋ひ焦がれつつ開かれぬ硬き岩屋に少年…

『孤島の鬼』江戸川乱歩

なんの変哲もない生活から、異常な人間たちの世界にまきこまれていく話。 主人公の賃金労働者は、恋人を殺される。これを調査していた友人の探偵も殺される。主人公のことを好いている同性愛者の友人がいて、2人は協力して犯人をつきとめようとした。 雑記…

『無関係な死・時の崖』安部公房

短編ごとに種類はまったくちがう。ことばは平坦でわかりやすく、「ぼく」という人称が鼻につく以外は、とくに不快なところがない。古臭い、堅苦しい小説調子のことばでないところが重要だとおもった。 「夢の兵士」……脱走兵を追い詰めてみたら自分の息子だっ…

『遺跡の声』堀晃

下級の遺跡調査員と、かれが育てている知的生命結晶体「トリニティ」は、銀河の辺境にのこされた生命体の遺跡をまわる。惑星の様子や、地球のものとはかけはなれた生命の図像が鮮明でおもしろい。どこかでみたような宇宙人もいるが。 文と人物はつねに冷静で…

『香港発・娘への手紙』邱永漢

――いままでパパの周辺で殺された人たちをみると、そのほとんどが「俯仰して天地に愧じず」と考えている人たちです。悪い人が罪に問われたり、ひどい目に遭わされるわけではないのです。そんなことよりも、現在自分がやろうとしていることが、どんな反応をひ…

『紫苑物語』石川淳

「紫苑物語」、「八幡縁起」、「修羅」の3篇を集めた本。どの話も古代の日本とおぼしき場所を舞台にしていて、ひらがなが多い。ことばを注意ぶかくえらんでつくっているという印象をうけた。 「紫苑物語」……弓で人を殺すことにとりつかれた守の話で、ばけた…

『細雪』谷崎潤一郎

関西に住む中流家庭の4人姉妹(特にそのうちの3人)を題材にした話。姉妹のうちの1人は社会性がなく30を過ぎても見合いがうまくいかず未婚だった。また末っ子は才気走っているが、身分違いの人間と付き合う、複数人の男と付き合う、結婚前に妊娠する等…

『桜の森の満開の下・白痴』坂口安吾

中学生の頃に読んで、さらに最近読んだ。 どうでもい短編や掌編が混ざっているので読み飛ばした。 著者の話には、たびたび女の肉体、恋、肉体のない恋といった言葉が登場するが、これら一連のテーマはわたしにはどうでもよいものである。本と相性が合わない…