うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『Yugoslavia: Death of a Nation』Laura Silber その1 ――ユーゴスラヴィア紛争について

 ◆所感

 ユーゴスラヴィア内戦を、連邦解体からボスニア紛争終結までたどる。紛争の概要や経緯をよく理解することができた。

 内戦の非常に大雑把な経緯は以下のとおりである。

 

ユーゴスラヴィア連邦のうち、最大国であるセルビアミロシェヴィッチの指導の下他の加盟国に対する統制を強化していく。

 ↓

・経済的に発展していたスロベニア、強力な民族主義の根付くクロアチアセルビアに反旗を翻す。

 ↓

 クロアチア領内にいたセルビア人が叛乱を起こす。セルビア本国は、ほぼセルビア人の軍となったJNA(ユーゴ人民軍)を使い、領土確保・拡大を目指す。

 ↓

 セルビア人、クロアチア人、ボスニア人がほぼ同じ割合で居住していたボスニアでは、ボスニア人大統領イゼトベゴビッチが独立を宣言した後、各民族による領土争奪戦が始まる。セルビア人はユーゴ(≒セルビア)への編入を、クロアチア人はクロアチア本国への編入を目指した。

 この過程で、領土を確定させるために異民族の追放と殺戮が行われた。三民族の中では、背後に国家をもたないボスニア人が劣勢に立たされ、また犠牲者が多かった。

 

 

 

 導入より……

・本書はユーゴスラヴィアが死に至った経緯をたどる。

ユーゴスラヴィアは、歴史的な宿命や必然により解体したのではなく、特定の勢力によって意図的に破壊させられた。

 すなわち、平和的な体制移行から何も得られない人間たちが、合理的・計画的に戦争を遂行した。

・中心となるテーマの1つは、ミロシェヴィッチSlobodan Milosevecと、最大の分離主義者Secessionistとなったセルビア人である。

ミロシェヴィッチユーゴスラヴィア人民軍(JNA)Yugoslav People's Armyを掌握したことで、独立は流血を意味することとなった。

スロヴェニアミラン・クーチャン大統領Milan Kucan、クロアチアのフラニョ・トゥジマン大統領Franjo Tudjmanは、セルビアの挑戦を受けた。ボスニアのイゼトベゴビッチ大統領Alija Izetbegovicは状況をコントロールすることができなかった。

・国際社会がいかにして介入に失敗したかについても検討する。

 

  ***

 1 充電

ミロシェヴィッチの台頭

 セルビア共産党ミロシェヴィッチは、ナショナリズムを利用し権力を掌握した。

 1974年に改正されたユーゴ連邦憲法は、地方分権を強化する内容で、コソヴォKosovo(アルバニア人が多数派)とヴォイヴォディナVojvodina(マジャール人等が混在)に自治権を付与するものだった。セルビア民族主義者はこの憲法に不満を抱いていた。

 セルビアは連邦内で最大の国だったが、他の共和国や自治州と平等の扱いを受けていた。「戦争に勝ち、平和において負けた」という不満が、セルビアナショナリズムの根底に存在した。

 共産党幹部のミロシェヴィッチは、コソヴォ自治州におけるセルビア人のナショナリズムを利用し、権力闘争を行った。

 1987年、ミロシェヴィッチコソヴォ・ポリエKosovo Poljeを訪問し、コソヴォセルビア人から熱狂的な歓迎を受けた。

 かれはコソヴォ民族主義者や、ベオグラード・テレビ局を利用し、親友のスタンボリッチ大統領Stambolicを失脚させた。かれはコソヴォの独立宣言に対抗して、直接統治を開始した。

 メディアコントロールと大衆の扇動がかれの政治手法だった。

 

スロヴェニアの春

 スロヴェニアは西側との関係が深く、政治的・経済的に開放されていた。ミロシェヴィッチの下でナショナリズムをむき出しにするセルビアに対し、スロヴェニアは警戒を強めた。
 JNA(ユーゴスラヴィア人民軍)は活動家やジャーナリストを監視し、取り締まった。

 JNAは、外敵と、内部の裏切り者を排除することを目的としていた。将校団は社会から隔離された環境で育成され、秘密主義的だった。JNAは共産党統治の中核であり、スロヴェニア人はJNAへの反感を強めていった。

 この頃、ユーゴ国防省のマムラ提督Branko Mamulaが徴募兵を使役し自分のための城を建てている事実が、雑誌ムラディナMladinaによって暴露された。

 1988年、ジャーナリストのヤネス・ヤンシャJanes Jansa逮捕と裁判をきっかけに、スロヴェニア人の独立運動が加速した。

 

・反官僚革命anti-breaucratic revolution

 群衆を扇動し、政敵を失脚させたミロシェヴィッチ手法について。

 ミロシェヴィッチはヴォイヴォディナ、コソヴォセルビア民族主義者を扇動し、自治州の政治家(コソヴォアルバニア代表アジム・ヴラシAzim Vllasiら)を失脚させ、自身の手下であるセルビア人を置いた。また、モンテネグロではセルビア人との統合を唱える派閥を権力につけた。

 こうしてかれは、8つの共和国及び自治州のうち、半分の票を手に入れた。

 1989年の改正憲法自治州の権限を大幅に縮小させ、ベオグラードBelgradeに集中させるものだった。

 

スロヴェニアの反発

 アンテ・マルコヴィッチMarkovic大統領の経済政策は顧みられず、各共和国は民族主義と殺戮を選択した。

 自治州に対する弾圧を受けて、従来、セルビアとは友好的だったスロヴェニアで、大規模な反セルビアデモが発生した。スロヴェニアは自国の憲法改正によりユーゴスラヴィアおよびセルビアの統制を離れようとした。

 ミロシェヴィッチはJNAに軍事介入を求めたが、国防相ヴェリコ・カディイェヴィッチKadijevicはこれを拒否した。

 ユーゴ共産党会議において、スロヴェニア代表クーチャンらは、セルビアに反発し退場した。クロアチア共産党幹部もこれを擁護した。

 

クロアチアの夜明け

 ナチス時代のクロアチア独立国(NDH)以降、クロアチア民族主義は厳しく禁じられていた。当該国はナチス・ドイツの衛星国家としてユーゴ国内を占領し、民族主義団体ウスタシャの指揮の下、セルビア人・ユダヤ人を虐殺したからである。

 元JNA将軍のトゥジマンは、民族主義者に転身し数回投獄されたという経歴を持つ。

 国外のクロアチア民族主義者は、ユーゴスラヴィアの敵として取り締まりを受けた。セルビア民兵指導者アルカンArkan(Zeljko Raznatovic)は、元々、秘密警察の協力者として亡命クロアチア人や反体制派を暗殺していた。

 トゥジマンは民族主義者や国外亡命者と連絡を取り、クロアチア独立運動を開始した。

 1990年、トゥジマン率いるHDZ(クロアチア民主同盟)が選挙で大勝した。JNAやベオグラードの圧力は、このナショナリズム政党の追い風となった。

 5月、トゥジマンはクロアチア初代大統領となった。クロアチア市松模様(Sahovnica, Checkerboard)が掲げられた。

 

 2 発火

・クニンの反乱

 クロアチアのクライナ地方にはセルビア人が居住していた。かれらはオーストリアハンガリー時代に、オスマン帝国の防波堤として植民された人びとの子孫だった。

 ミラン・バビッチMilan Babicは、NDH時代、クロアチア民兵組織ウスタシャUstaseが自分たちを虐殺した記憶を呼び起こした。

 新生クロアチアは、クロアチア民族のための国家となり、憲法からはセルビア人ら少数民族は排除されていた。セルビア人はこれに危機感を抱いた。

 かれは当時のセルビア人政党であるSDS(Serbian Democratic Party)の指導者ラシュコヴィッチRaskovicを退け、クライナ・セルビアナショナリズムを扇動した。

 セルビア自治体であるクニンKuninで1990年8月、バビッチはクロアチア人排除を決行し、クロアチア警察を阻止した。同時に、クライナ・セルビア共和国Republika Srpska Krajinaの成立を宣言した。

 セルビアとJNAは、この動きを支持した。

 

スロヴェニアクロアチア武装

 JNAは、両国のTO(Territorrial Defense, 地域防衛隊)を武装解除した。2つの国はこの動きに反発し、スロヴェニアでは、国防省ヤネス・ヤンサが国外からの武器調達を開始した。クロアチアでは警察を軍事化するとともに、警察・軍事部門での非セルビア化de-Serbianizationを行った。

 クロアチア防相マリティン・シュペゲリMartin Spegeljは警察を国家防衛隊National Guardに編成し、JNAの武器庫と兵舎を制圧するようトゥジマンに要請したが、この過激な提案は退けられた。

 シュペゲリらの動向を監視するため、人民軍の防諜局(KOS Counter Intelligence Service)はシュペゲリの友人ヤガール大佐Colonel Jagarを利用し盗聴と盗撮を行った。

 

 連邦幹部会Federal Presidencyでは、ミロシェヴィッチ一派のヨヴィッチJovicが、クロアチア代表のメシッチMecicに詰め寄っていた。JNAは、クロアチアに対し準軍事組織を武装解除するよう要請していたが、クロアチアは拒否した。

 ミロシェヴィッチは、各国の独立は許したとしても、セルビア人居住区域は制圧しなければならないと考えていた。

 [つづく]

 

Yugoslavia: Death of a Nation

Yugoslavia: Death of a Nation

  • 作者: Laura Silber,Allan Little
  • 出版社/メーカー: Penguin Books
  • 発売日: 1997/01/01
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『Cybersecurity and Cyberwar』P.W.Singer, Allan Friedman その2 ――サイバー戦争に関する最新ガイド

 ◆サイバー戦争の実際

・ネットワーク中心の戦争Network Centric War……戦争におけるネットワークとコンピュータの比重の増大

サイバー攻撃によって、物理的な破壊と死をもたらすのは簡単ではない。しかし、いずれそういう事態は起こるだろう。

 

 ◆米軍とサイバー戦争

 2010年、合衆国サイバー軍USCYBERCOMが設立された。サイバー軍はサイバー防護部隊(軍の防護)、戦闘任務部隊(作戦の支援)、国家任務部隊(重要施設防護の支援)の3種に分類される。

 問題点……サイバー軍はサイバー空間のどこまで責任を有するのか? どこまでの権限を持つのか? サイバー空間と現実空間の境界線はどこか?

 NSAやDHS(国土安全保障省 Department of Homeland Security)とのすみ分けはどうなるのか。

 サイバー攻撃によって発電所がダウンした場合、サイバー攻撃によって報復するべきなのか、それとも敵の発電所を爆撃するべきなのか?

 攻撃に重点を置きすぎており、防御がおろそかになっている。三軍と並列してサイバー軍を置くべきではとの意見もある。

 

 ◆中国サイバー軍

 サイバー空間における最大の脅威が中国軍である。同時に中国はサイバー攻撃の最大の被害者である。とはいえ、その原因は、中国で利用されているソフトウェアの95%が海賊版であり、セキュリティが劣っている点にある。

 サイバー部隊の整備が続いているが、一方、中国軍の装備にも脆弱性が存在する(様々な世代にまたがる配備状況等)。

 課題……中国軍への文民統制はどのように達成されるのか。また、サイバー空間の軍事化によって、インターネットはどう変貌していくのか。

 

 ◆サイバー戦争時代における抑止力Detterence

 抑止のためには、相手に対抗する力が必要である。しかしサイバー攻撃においては、「相手」がだれか、どのような主体(国家、テロ組織、愛国ハッカー)なのかを特定するのが難しい。

 攻撃の兆候はすぐには発見できず、また反撃についても同様であるため、抑止力として機能するか疑わしい。

 

 ◆脅威見積もりThreat Assessment

 サイバー戦争における敵の可能行動等を予測するのは困難である。重要なのは、必ず不確実性が存在することを、戦略家たちが認識することである。

 

 ◆強者か弱者か

 サイバー戦争は、小国やテロリストでも低コストで参加可能である。サイバー戦力とネットワークに頼れば頼るほど、それだけ脆弱性も強くなる。

 しかし、現実世界も含めた総合的な力では、大国や豊かな資金には勝てないだろう。

 

 ◆攻撃か防御か

 19世紀末の攻撃至上主義は第1次世界大戦によって崩壊した。攻撃至上主義は、戦争の危険を増大させ、だれも望まぬ戦争を引き起こした。

 サイバー戦争においては、主導権をとれる攻撃側が優勢とされている。しかし、十分な防御はそれだけで敵の攻撃に対する牽制になる。

 

 ◆サイバー拡散Cyber Proliferationの危険性

 stuxnetや、ワーム等の兵器は、一度出回るとすぐにコピーされ、拡散する。

 

 ◆軍拡競争からの教訓

・急成長期の軍拡が最も危険である。

・軍拡よりも、対話のほうが安くすむ

 

 ◆サイバー軍産複合体

 サイバー関連産業の規模は拡大を続けている。サイバー産業の成長は、公共政策にも影響を与える。

 サイバー戦争への恐怖に煽られるのではなく、事態を正しく認識する必要がある。

 

  ***

 3 わたしたちは何ができるのか

 ◆もう1つのインターネット

 既存のインターネットから隔離された、別のセキュアなインターネットをつくるのは困難である。ネットワーク規模が増大すればするほど、セキュリティのリスクも増大する。

 国防総省の機密情報ネットワーク(SIPRNET)は、長年にわたりマルウェア感染と戦っている。

 

 ◆弾力性Resilienceとはなにか

 攻撃を受けても影響を局限し、任務を続行できることが弾力性の定義である。しかし、この言葉はあいまいである。

 弾力性は、何か特別な製品や、特別な組織編成によって達成されるのではない。弾力性には人間や手続きといった要素も加わる。

 

 ◆サイバー空間における公衆衛生Public Health

 疾病予防管理センター……CDC(Centers for Disease Control)は、もっとも成功した機関の1つである。

 著者は、サイバーCDCの設置を提唱する。

 従来のサイバー軍やスパイ機関といったアプローチに代わり、調査研究、脅威情報の解釈、情報共有と普及教育を目的とするサイバー機関を設立すべきである。

 

 ◆サイバー空間と海賊Piracy

 海賊が人類共通の敵となった歴史を鑑みて、サイバー空間においても、海賊行為を撲滅するために協調が可能かどうかを検討する。

 

 ◆国際機関の設立

 国際電気通信連合(ITU)は、電信における国際規範を確立した。近年、中国、ロシア、スーダン等は、ITUの管轄にインターネットも加え、各国の統制下におくべきだと主張したが、民主主義諸国はこれを拒否した。

 インターネットにおける国際的なガバナンスの実行にはまだ課題が多い。

 

 ◆サイバー空間条約

 地上戦におけるハーグ陸戦条約と比べ、サイバー戦争において交戦法規を定めるのは難しい。サイバー攻撃やサイバー兵器は、物理兵器のように目に見えにくいからである。

 しかし、CIAとKGBが暗黙の了解で結んでいた協定(属国のスパイは殺してもいいが、米ソお互いには殺さない)のように、明文化されるにしろされないにしろ、サイバー戦争の激化を抑制する何かしらの決まりはつくれるはずである。

 

 ◆政府の役割

 サイバー空間のインフラは民間に頼る部分が多く、またインターネットの構造上、国家による完全統治・支配は不可能である。

 しかし、サイバー空間に対し国家がいっさい関与しないという姿勢も、国家本来の役割……市民のためにあるという目的からは外れている。

 

 ◆どう組織化するか

 公共機関において、どのようにサイバーセキュリティを組織するかが問題である。縦割りは、非効率化や、脆弱性の原因となる。

 DHSは、合衆国全土のサイバー防護という重い責任を負っているが、権限はほとんどない。

 すべてのサイバーセキュリティ業務を情報機関にゆだねることは、市民の自由の観点から問題が生じやすい。

 私企業への働きかけには、インセンティブが重要となる。銀行は、詐欺やサイバー窃盗の被害をまともに受けるため、自分たちのセキュリティ向上には熱心である。一方、重要インフラ企業や機関では、セキュリティ対策への関心が低いことが多い。

 政府は、セキュリティの基準を定め、また研究調査を担うことができる。

 

 ◆官民の協同

 ワシントン・ポストの記者が、「McColoという会社の顧客にサイバー犯罪関連人物が多数いる」とブログで報じた。当該会社と契約するISPが次々と手を引いたため、インターネット上のスパムの量が7割まで減った。

 政府や公共機関と私企業との連携が、サイバーセキュリティの確保に不可欠となる。

 

 ◆演習

 様々な攻撃に備えたサイバー演習Excerciseは有効である。サイバー防御においては、特に組織としての活動や、各人の動きが結果を左右する。演習を行い攻撃に備えること、またサイバー戦を模擬することは、サイバー戦争の実態を広く普及させる方法にもなる。

 

 ◆サイバーセキュリティ・インセンティブ

 私企業においてセキュリティの意識を高め、対策をとらせるには、インセンティブが必要である。

・脅威を可視化すること。

・対策を産業化すること。

・基準を定め、私企業の自主的なセキュリティ向上を目指すこと。

 

 ◆情報共有Sharing

 サイバーセキュリティでは私企業同士、国と民間企業、各機関が脅威や警戒情報を共有していたほうが望ましい。

 プライバシーや企業の財産を保護しつつ、いかに情報共有を図るかが重要である。

 

 ◆情報開示Disclosureと透明性Transparency:

 

 ◆サイバーセキュリティの担保

 

 ◆サイバー人材の確保

 サイバー人材は非常に貴重だが、需要が高く、獲得が難しい。伝統的な企業風土とハッカーたちの性格が合わず、サイバー人材を必要とする場所に人材が集まらない例が多い。

 NSAは多様な採用方式をとっており、近年もっとも組織に貢献した職員は高校中退のアルバイトだった。

 ロシアからのサイバー攻撃を受けたエストニアでは、公的機関と民間の人材が協力し、サイバー防衛のための連合体制を発足させた。愛国ハッカーたちとは違い、透明性を確保しつつ、非政府人材・資本を活用している。

・教育への補助

 

 ◆自己防衛

・パスワード管理

・システムと装備……無線接続への注意、データバックアップ

・行為……クリックやファイル起動の際の警戒

 

 4 結論

 今後やってくるサイバー空間の潮流について。

クラウド……低コストで高度の情報共有、セキュリティを可能にする。

ビッグデータ……データ分析の強化と、情報流出、収集のリスク

・モバイルデバイス化……セキュリティリスク、無線の運用や限界

・ネットユーザーの遷移……インターネットはその利用者によって作られていく。既にスマートフォン利用者は、北米・欧州の総数を、アフリカでの利用者数が上回っている。中国人の利用者はネット世界の大部分を占めるようになるだろう。それに伴い、インターネット文化やその性格も変化していくだろう。

・IoT……あらゆる電子機器や家電製品がネットワークを通じて連接される。利便性の向上とリスクの増大。

 

  ***

 ◆所見

・サイバー戦争の定義や対策は過渡期にあり、それぞれの主体が、最善の方法を探している状況にある。

・サイバー戦・サイバー防衛については、官と私企業との連携、相互効果がかぎとなる。

・個人の意識やサイバー教育が、リスクを低下させる。

 

Cybersecurity and Cyberwar: What Everyone Needs to Know

Cybersecurity and Cyberwar: What Everyone Needs to Know

 

 

『Cybersecurity and Cyberwar』P.W.Singer, Allan Friedman その1 ――サイバー戦争に関する最新ガイド

 サイバーセキュリティとサイバー戦争について、初心者や専門外の人間にも理解できるよう書かれた本。

 著者は軍事関係の話題を扱う解説書で有名である(『戦争請負会社』や、無人機、少年兵等)。
 

   ***
 サイバーセキュリティの重要性は高まりつつあるが、専門家とそうでない人たちの間で知識の差が生じている。本書はサイバーセキュリティについて初歩から説明する。

 具体的なサイバー戦争の実態だけでなく、国家や私企業の取り組みの現状と提言、将来の動向までを総合的に検討する。

 

  ***

 1 しくみ

 ◆サイバー空間Cyberspaceの定義

・サイバー空間とは、コンピュータネットワークの空間である。そこでは情報の蓄積、共有、伝達が行われる。

・サイバー空間はデジタル、仮想Virtualであると同時に現実にも存在する。また、地球規模だが、国境がないわけではない。

・サイバー空間は常に進化している。

・サイバー空間は、私たちの文明、人生そのものを形作る。

 

 ◆インターネットの歴史

 インターネットの起源は米国防総省のARPANETである。当初、大学の研究所同士をつなぐネットワークだったが、やがてサーバは分散し、ネットワークの担い手は政府から非政府、企業等へ移っていった(政府の管理から、私的領域へ……Privatization)。

 インターネットの特徴は、パケット通信packetである。

 

 ◆インターネットのしくみ

・DNSサーバDomain Name System

・TCP/IP

・HTTP

・ルーティングRouting

・ISP

 

 ◆インターネットにおけるガバナンス

 開かれた、非権威的な、おおらかな統制、合意consensusが当初の理想だった。

・ICANN……The Internet Corporation For Assigned Names and Numbers

ドメイン名や、IP資源の割り振りをめぐって、国家、企業間の対立が生まれた。非中央集権的なインターネット空間における統制・統治の問題。

 

 ◆識別Identificationと認証Authentification

 どのように識別を行うのか。また、どのように認証を行うのか。サイバーセキュリティは、情報の共有と保護とのバランスによって成り立つ

・IPアドレスから人物を特定することができる。一方、偽装し、痕跡を消すこともできる。

・識別のためのパスワードや生体認証には抜け道がある。

 

 ◆セキュリティとは

 セキュリティとは、攻撃者から情報を守ることである。
・CIA

 Credibility機密性(情報の保全

 Integrity完全性(改ざん等がなされていないこと)

 Availability可用性(情報を利用できること)

 Resiliency弾力性(回復力)

・セキュリティの各目標に対して、それぞれ異なる対策が求められる。

 

 ◆脅威Threatsとはなにか

 攻撃者の目的、標的、手段によって、脅威は様々である。

・ソーシャル・エンジニアリングsocial engineering

・内部犯行……Wikileaks, Edward Snowden, Bradley Manning

・標的型

・サイバー戦……stuxnet

・産業スパイ

・営利目的の詐欺

ランサムウェアransom ware

 

 ◆脆弱性Vulnerabilitiesとはなにか

 脅威と脆弱性は別だが、脆弱性は、攻撃者による脅威を招く。

フィッシング詐欺Phishingは、真正のサイトやメールを装い、対象から資格情報Credentialsを抜き取る。

・ログインIDとパスワードを狙う

・プログラムに、コマンドを誤認識させる手段……buffer overflow

マルウェアMalwareボットネットBotnetsによるDDoSアタック

 サイバー空間においては、脆弱性はどのようなタイプの情報システムにも存在する。

 

 ◆サイバー空間における信頼性

・暗号化

・ハッシュ

・公開鍵方式Public key and Private key

・証明書Certificatesと認証局(CA)Certificate Authorities

・アクセス制御Access Controlは有効な情報保全の方法だが、大規模ネットワークでは完全な制御は不可能に近い。

・信頼性には、常に人間の要素が介在する。

 

 ◆Wikileaksとはなにか

 ジュリアン・アサンジによる開設と、反政府活動。イラク戦争関連のリークから、外交公電のリークまで。

 

 ◆APT:Advanced Persistent Threat
 APT(高度持続型脅威)とは、特定の標的を決め、組織的に、様々な手法を使って相手のシステムから情報を引き出したり、改変、破壊したりすること。

 

 ◆コンピュータ防御の基礎

 マルウェア・タイプは増え続けており、定義ファイルはその速度に追いつくことができない。このためウィルスセキュリティソフトは、振る舞い検知型のソフトを開発した。

・ファイアーウォール

・セキュリティパッチ

・暗号化

・システムの隔離……Air Gapping

 しかし、システムをネットワークから隔離することは、可用性や利便性を失うことにもなる。

 サイバー防御の要点は、様々な方法を多用することにある。

 

 ◆ヒューマンファクター

 重要情報を扱うシステムを操作する者に対しては、セキュリティに関する教育を行わなければならない。

 

  ***

 2 重要性

 ◆サイバー攻撃の定義

 サイバー攻撃は、デジタル的手段によって、コンピュータを攻撃することをいう。

 力学的攻撃Kinetic Attack……銃や砲弾といった物理的攻撃との違いについて。

 

 攻撃の種類は、セキュリティの要件に従って分類することができる。

 機密性credibilityに対する攻撃……APT、データ窃取、

 可用性Availabilityに対する攻撃……DDos Attack,

 完全性Integrityに対する攻撃……改ざん、

 

 帰属問題The Problem of Attribution:

 サイバー攻撃においては、攻撃者を特定することが大変難しい。攻撃者は、犯人が別人であるかのように装う。また、政府と、非政府的な愛国ハッカーとの関係も、特定が困難である。

 攻撃の規模が大きくなればなるほど、原因特定は困難となる。また、原因特定においては、文脈と目的が重要である(公に非難したいのか、実際に法律で処罰したいのか)。

 

 ◆ハクティヴィスムHactivism

 ハッキングとアクティヴィスムとの融合。

・社会運動とのかかわり

・自由を求める運動が、過激化することで逆に自由を圧迫することもある。

・「手段は目的を正当化するのか?」

 

 ◆アノニマス

 アノニマスAnonymousは、2000年代中盤から登場した、匿名の、分散化していると同時に協調的なハッカー集団である。

・セキュリティ企業への攻撃

・Do-ocracy

IRC(Internet Relay Chat)や掲示板による会議

・AnonOps

トムクルーズビデオ……サイエントロジーへの攻撃

 

 ◆サイバー犯罪

・情報窃取、詐欺Scam、違法なビジネス、販売、盗聴・傍受Eavsdropping, Tapping

・サイバー犯罪の規模を測定することは難しい

・サイバー犯罪は、通常犯罪とは異なり、ネットワークインフラに寄生している。

 

 ◆サイバー諜報活動Cyber Espionageとはなにか

・2011年の標的型攻撃Operation Shady RATsは、大規模な諜報活動であることが判明した。

・諜報は、より経済的なターゲットに移行しつつある。経済活動におけるサイバー諜報が、国際政治問題となる。

・中国は急激に経済成長している。産業においては知的財産(IP, Intellectual Property)を奪うことが利益につながる。このため、多くのサイバー諜報が中国に関連している。

 

 ◆サイバーテロ

 サイバー攻撃によって大量殺人や大量破壊を引き起こすためには、人員やコストが必要である。サイバーテロの脅威は、ときに誇張される。

 実際には、テロリストたちはサイバー空間を情報共有や情報戦に使う。アルカイダや過激派たちは、宣伝、リクルート、通信にインターネットを活用している。

 

 ◆対テロリズム

 テロリストと同様、対テロリズム機関や組織も、サイバー空間を活用し、敵に反撃することができる。

 

 ◆セキュリティと人権とのバランス

 権威主義体制下では、インターネットによる発言や活動が自由化に大きな影響を与える例があった。こうした国では、サイバー空間における自由は、脅威として認識される。

 脅威に備えるべきか、人権を保障するかの判定は、だれがするべきなのか?

 

 ◆Tor

 TorとはThe Onioin Routerの略で、発信者と行先を、ノードにより分散化させ秘匿する方式である。サイバー空間における秘匿性、匿名性を確保する技術であるため、リスクにも自由の武器にもなる。

 

 ◆愛国ハッカーPatriotic Hackers

 ロシアや中国は、非国家主体である、自発的な愛国ハッカーたちをサイバー攻撃に利用することがある(ロシアのNashi「われら」等)。

 しかし、時に政府の統制を離れて暴れるため、中国ではハッカーを軍に組み入れる等、より管理されたハッカーの養成を始めている。

 

 ◆スタックスネットStuxnet

 2010年、イランの核開発施設を狙った巧妙な標的型攻撃が行われた。Stuxnetはサイバー戦争の歴史を塗り替える事件とされ、後にアメリカとイスラエルの関与(NSAとイスラエル軍8200部隊)が明らかになった。

 

 ◆サイバー戦争の定義

 サイバー戦争の定義は、「冷戦」の定義に似て、あいまいである。

 2007年、ロシアのエストニアに対するサイバー攻撃は、サイバー戦争を定義することの難しさを浮き彫りにした。厳密な戦争行為The act of warと定義した場合、NATOには救援義務、すなわちロシアに対する宣戦布告の義務があったからである。

 おそらく、サイバー戦争の定義は、物理的な破壊と死をもたらすもの、またその攻撃が直接的であることを要件とするだろう。

 しかし、戦争は政治の延長である。サイバー戦争の定義も、政治的判断の影響を強く受けることになるだろう。

 [つづく]

 

Cybersecurity and Cyberwar: What Everyone Needs to Know

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戦争請負会社

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ロボット兵士の戦争

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子ども兵の戦争

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その家はよみのみちにして死の室に下りゆく

 無職戦闘員のみた夢の内容

・知恵文学

・労働

・科学サイド

トクヴィル

 

 ◆猿智慧文学

 記事のタイトルは「箴言Proverbs」からです。

 文語訳聖書をはじめから読んでおり、現在は箴言まで来ています。1つ前の「詩篇」は金太郎飴のような賛美が続くのでほぼ読み飛ばしましたが、「箴言」は非常に面白いです。

 ロレンスの『知恵の七柱』の由来となった箇所を発見しました。

 

 ――智慧はその家をたて その七つの柱をきりなし そのけものをほふり……

 

 「エステル記」では、ユダヤ人絶滅をたくらんだ、側近ハマンや各州の敵に対して、ユダヤ人モルデカイとその娘エステル(ペルシア王の妻となっていた)が報復の処刑を行います。

 

 ――ユダヤ人すなわちやいばをもてそのすべての敵を撃ち殺して殺し亡ぼしおのれを憎む者をこころのままになしたり ユダヤ人またシュシャンの城においても500人を殺しほろぼせり

 ――エステルいいけるは王もしこれを善しとしたまわば願わくはシュシャンにあるユダヤ人にゆるして明日も今日の詔のごとくなさしめかつハマンの10人の子を木にかけしめたまえ
 ――……おのれを憎む者7万5000人をころせりしかれどもそのもちものには手をかけざりき

 

 聖書は人間の過ちが数多く書かれた本であり、人間の不完全さを示している、と解説する方がいます。しかし、過ちの中のだいぶん多くの部分は、エホバの指示のもと行われていたり、エホバに評価されていたり、というような印象を受けます。

 

 教会や聖職者が行ってきた犯罪や不正行為は歴史の中にいくらでもありますが、同時に素晴らしい行為もあります。

 

 ハワイ州のモロカイ島にはハンセン病患者を隔離するための集落があり、断崖絶壁で周囲から孤立しています。島にやってきたベルギー人ダミアン神父は、当該カラウパパKalaupapa診療所で患者のケアを行い、本人も感染しました。

 

 カラウパパ診療所を崖の上の展望台から見下ろしています。

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 クリミア戦争の本を読んでいるときに印象に残ったナイチンゲールもまた、独自の信仰を持っていたようです。調べた限りでは、当時の国教会の教義には批判的で、あくまで自身の信仰に基づいて看護活動を行ったということです。

 

 自分がキリスト教徒になれるかといわれると、キリストの復活を信じることができないので無理だと思います。30歳過ぎてから、キリストがまさに屍体の状態から復活した、というのを新たに信じるというのは非常に難しいです。

 

 

 ◆労働者の夢

 ナイチンゲールの業績を調べていると、人の役に立っているということをうらやましくおもいます。

 無職戦闘員としてはまず自宅を守ることだけが任務ですが、世のため人のためになっているかというとそこまで自信がありません。

 

 家で下のような夢を見ました。

 迷彩服を着た公務員だったときはどうかというと、在籍した時間のうち95パーセントくらいは、人生のムダと感じていました。

 人の役に立っている、まっとうな仕事をしている、と感じたのは職場や外の人から感謝されたときだけでした。しかし、普段しょうもない部分を見ており、自分も多かれ少なかれ加担しているため、周囲をだましているような気分になります。

 特に地震後は外部の人から感謝されることが多く、そのたびに気まずくなりました。外部の人に対して、「いや、全然クソですよ。税金をどぶに捨ててますよ」などとは言えないからです。

 制服やサバゲー衣裳で外に出なければならないときは、よく声をかけられました。「日本を守ってくれてありがとう」と声をかけられれば、恐縮するしかない。「実はこの器材はガラクタですが、それを言うと会計検査で問題になるから言いません」などとは言えませんでした。

 

 いまは深刻な人手不足だそうですが、若い人の人生をつまらなくする無駄ルールや無意味な業務をどうにかしない限りは改善しないだろうと思います。

 

 最後にやらされたムダ作業は行政文書用キングファイルの大量作成でした。

 頭の弱い大臣・政治家たちが例の日記文書――どんな末端兵隊でも、保存していないわけがないとわかるパワポ資料――のある・ないでひとしきり騒いだ後、わたしたち末端の兵隊たち全員が集合させられて、「行政文書の管理が重要だ、国民の厳しい目が向けられている」と指導されました。

 「行政文書の管理がずさんだったのではなく、本来存在していたものを、政治的配慮で存在しないと言い張ってそれがばれたから問題になったのでは?」と思った人が多数でしたが、ソ連的しぐさで皆大人しくしていました。

 その後やらされたのは、紙と背表紙を印刷してキングファイルを大量生産する作業でした。

 あまりに面倒なので、これは言外に「都合の悪い書類は存在自体をなかったことにしろ、メールフォルダ、PC、紙すべて抹消しておけ」ということだと我々は察しました。

 ※ なお政治家だけでなくサバゲー組織自体も書類の隠蔽は得意分野で過去に問題化しています。

いじめ自殺事件 - Wikipedia

 

 

 大きい役所では、一定レベル以上の改革は政治の範囲になりますがこの範囲の人びとが輪をかけてひどいです。

 昨今では予算の増額も「いいねえ、じゃぶじゃぶお金かけよう」で見過ごされてますが、失敗したときにまた、騙された、と1億2000万人が発狂する流れが見えます。

 

 本当に自分が納得のいく、人のためになることをやって生計を立てるのは難しいと感じます。世の中の役に立ちたいという感情だけが先走っても、問題が出てきます。

 昔、大変正義感の強かった知り合いが謎のネットワーク商法にとりこまれているのを見て、判断力も同じくらい重要だと考えるようになりました。

 

 

 ◆科学と魔術が交差云々

 キリスト教の中でも聖書を文字通りの事実ととらえる宗派(ファンダメンタリスト等)があり、ドーキンスやカレン・アームストロングの本でも批判されていましたが、アメリカに滞在していると意外に身近なところにいるのでおどろきます。

 とある知人はサイバー・セキュリティ関連会社に勤めており、契約業者として米国防総省のサイバー戦に関わっています。

 かれは毎週末教会に通っており、「聖書の重要性はその事実性にある」と力説しています。かれの情報処理・セキュリティ知識と聖書の事実性がどう整合をとっているのかわかりませんが、人の心は単純ではないと感じました。

 

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 ◆引き続きトクヴィル

 トクヴィルアメリカ合衆国観察は、かれが影響を受けたモンテスキューよりも現代に通じる点がたくさんあります。モンテスキューの主張には、今の感覚だと奇妙な点もたくさんありますが、トクヴィルは読み進めるごとにその通りだと感心しています。

 『アメリカのデモクラシー』で描かれているアメリカ合衆国は、既に存在しない世界です。同時にトクヴィルは、民主主義が暴政にいたる致命的な欠点も指摘します。

 

 この本に登場する19世紀の合衆国民は自分の国に愛着を抱いていますが、実際に生活していても同じような方が多数です。外国人に対して「自分の国はクソだ」という人はほとんどいませんし、なかなか言えないとおもうので本音はわかりませんが。

 自分の関与できないところで世襲政治家たちが税金を詐取し、公文書を改ざんし、理不尽な受信料をとり、住民の大半が英語を理解しないのをいいことに公共放送ででたらめなプロパガンダを垂れ流し、中世的な尋問や身柄拘束を行う国にどうやって愛着を持つことができるでしょうか。

 わたしはこういう輩の養分になるために生きたくはありません。

 ――権力はあなたが部屋の中で、モニターの前で大人しくしていることを望んでいる。

 

 

 ・地方自治と主権者意識の重要性

 ――アメリカの政治姿勢を形成しているのはタウンシップである。タウンシップは自治体の自由freedom of municipalityを実現した稀有な例だが、この自由こそが自由主義的国家の精神の源となっている。自治体の自由の精神なしには、いかなる自由主義的政治制度も張りぼてにしかならない。

 

 

 ――分権化したアメリカの町村は非常に活気に満ちており、またよく自治されている。
 ――ヨーロッパの典型的な住民は、自分たちの外の問題にまったく関心をもたず、しかし危機が迫ると政府に助けを求める。強制には従う一方、従わなくていいときは規則に反抗する。かれらには公民としての徳が欠けており、臣民ではあるがもはや市民ではない。

 ――わたしが合衆国について最も尊敬するのは……祖国がどこでも関心の中心であることである。……かれらは自国の繁栄を、自分たちの貢献が活かされたものと認識して喜ぶのである。

 

 2種類の愛国心(patriotism)……故郷や自分の君主に向けた原始的な、熱狂的な愛国心と、法や教育、政治参加により得られるより理性的な愛国心が存在する(君主制愛国心と共和政の愛国心)。国家が腐敗した場合、原始的な・素朴な愛国心はもはや戻ってこない。人びとを自分たちの国に巻き込むには、かれらの政治参加を増やすのが方法の1つである。市民の精神は政治参加の度合いに比例して増大していく。

 

 

 ・言論(出版)の自由

 ――言論の自由は、少しでも制限されればたちまち全面的な抑圧につながる。国民主権報道の自由は両者不可分である。それは検閲制度と普通選挙が両立不可であるのと同じである。

 

 ・民主主義の幻想

 ――予想に反して、アメリカでは、優れた人物が公職に就くことは少ない。その理由は国民の知的レベルにある。一定以上の知識を身に着けるには仕事をせずに学習する時間が必要である。しかし、国民全員が知識階級という国は、全員が富裕層という国と同じくらい非現実的である。現実では、口のうまい山師が、真に優秀な人物を押しのけて人びとの人気を獲得する。

 

 ――アメリカにおいて多数派が決断した場合、言論や思想の自由は、君主制国家以上に抑圧される。こうした自由は、多数派が許す範囲においてのみ保障される。君主制とは異なり、民主主義下では、異論派は肉体的に弾圧はされないが、社会的に排除される。

 ――どれだけ有名な著述家であっても、市民を賞賛するという責務からは逃れられない。アメリカの多数市民は終わりなき自画自賛のなかで生きている。外国人や専門家だけがアメリカ人の耳に真実を伝えることができる。

 

 アメリカにおける思想の自由の欠如は、スペインの異端審問を超えている。

 ヨーロッパの宮廷では主権者(国王)へのお追従・御機嫌取りが日常となるが、多数派が支配するアメリカではこの宮廷精神(お追従・御機嫌取り)が日常社会にまで浸透する。自国にとって都合の悪いことを口にする人間がアメリカにはほとんどいない。

 

 ・陪審

 ――陪審制はすべての人に対し、自らの行為の責任から逃れてはいけないことを教える。この態度なしに政治的な美徳は存在しえない。

 ――……陪審制はすべての人に対し、かれらが社会に対し責務を負っていること、政府の一員であることを学ばせる。

 

 ・多数派の暴政

 合衆国では多数派の信念が無批判に受け入れられている。多数派の思考が国や国民の精神に及ぼす影響は、宗教に匹敵する。

 平等は、一方では各人の自由な思考を促すと同時に、他方では思考を多数派の総意の内に閉じ込めてしまうだろう。後者は、別のかたちの隷従に過ぎない。

 

 ――私の考えでは、権力がわたしを抑えつけていると感じるとき、だれがやっているのかは問題ではないし、無数の手がわたしに服従するよう促すからと言ってそのくびきに跪くつもりはない。

 

 ・平等の結末の1つ

 反射的にナチス・ドイツソ連を連想しますが、ハンナ・アーレントによれば全体主義への移行は19世紀から既に始まっていたとのことです。

 

 ――平等は、各人に自分が皆と同等であるという自信を与えると同時に、かれを脆弱で無価値な存在に追い込む。

 ――社会条件がより平等になり、個人がお互いに似たり寄ったりとなり、弱く、ちっぽけになるにつれて、市民よりも国家を重視し、個人をかえりみず人種のみを考慮する習慣が生じる。

 

Democracy in America and Two Essays on America (Penguin Classics)

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On Tyranny: Twenty Lessons from the Twentieth Century

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