副題:9.11からアブグレイブへの道
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著者は、まえがきによればボブ・ウッドワードと並ぶ調査報道の第一人者である。
――わたしは昔ながらの左翼、過激派、人種差別主義者などを取材してまわろうとは思わない……昔気質の善良な民主主義者を取材する。政治的に偏った人びとの言葉をもとに判断をくだすのはまずいと、ずいぶん前に悟った。肝心なのは、その人間が誠実であるかどうかだ。
刊行されたのは2004年だが、イラク戦争の失敗要因や問題は本書でほぼ出尽くしている。
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1
――国防総省やホワイトハウスは、戦略的欺瞞という名分を用いて、現実とは逆の事柄を公に口にすることがある。むろん、政府が二枚舌を使ったりだましたりする相手は、アルカイダその他のテロリスト集団ではなく、アメリカの報道陣や国民なのだ。
2002年設置のキューバ・グアンタナモ海軍基地収容所において、アフガニスタンから連れてこられた被疑者たちが拷問や非人道的な取り扱いを受けているという報告が問題となった。
ブッシュ大統領、ラムズフェルドらは、収容所にいるのは敵性戦闘員であるため、ジュネーブ条約や国際法の適用外となることを承認していた。
グアンタナモでは、明らかに無関係の高齢者や知的障害者、子供たちがテロリストと疑われ、尋問・拷問されていた。
赤十字や、FBI、軍内部からも、テロ対策にとって無意味どころか有害であると抗議があがったが、政府高官は動かなかった。
2003年8月、イラク戦争の雲行きが怪しくなると、大統領らはグアンタナモの方式をイラクでも採用することにした。
大統領と国防総省上層部は、軍の指揮系統にとらわれず、秘密裏に人間狩りを実施できる「特別アクセスプログラム」を開始した。これは完全に秘密事項となった。
2004年2月末発簡の内部報告書には、アブグレイブでの虐待の細部が書かれていた。
情報部隊(MI)、民間軍事会社の指揮下、憲兵隊が捕虜に対し虐待を行っていた。義憤にかられた1人の憲兵が写真を部外にリークしたことで事件は世界中に広まった。不法行為の指揮はCIAと情報部隊、民間人がとっていた。
グアンタナモ所長ミラー准将の方針により、情報部隊が指揮をとりアブグレイブに尋問・拷問を導入した。
――2004年8月に一部の記者に提供されたミラーの秘密報告書の完全版によって、ミラーの計画に大胆な目標があったことがはっきりした。アブグレイブを、ブッシュ政権のテロとの世界戦争のための情報センターにしようというのだ。
ブッシュと軍上層部は、一部の暴走だと弁解したが、報告書は「米陸軍最上層部の指導力の欠如による集団的な不法行為である」と指摘した。
――同盟国の連中ならこういうだろう。捕虜の歯や指を引っこ抜いて、いい情報を手に入れた。そいつは死んだが、知ったことじゃない。同盟国の将校を使って頭をかち割るのと、米兵に同じことをやらせるのとの境目が、だんだんぼやけてきたんだ。
特別アクセスプログラムについて。
――なぜ隠密のままにしておくのか? ……手順が不快感を与えるからだ。ソーセージ作りと同じだ――できあがったものは好きだが、どうやってつくるかは知りたくない。それに、イラク国民やアラブ世界に知られたくない。そもそも、われわれがイラクに侵攻したのは、中東を民主化するためだった。刑務所でアラブ人にどんな仕打ちをしているかをアラブ世界に知られては困る。
2
なぜ9.11が防げなかったのかについて。
情報機関の失敗……要因は、ジェイムズ・バムフォードの"Pretext for War"でも言及されている。
・各情報機関の不和
・テネット長官らCIAが、政権に従順すぎたこと
・FBIの情報分析・統合能力の欠如
テロから2年経っても、局内でパソコンに互換性がない、メールを送れるパソコンが各階に1台というような実情が改善されていなかった。
9.11実行犯の1人と疑われたフランス系のアルカイダメンバーについて。
――……ムサウィのような若者が進んで極端な道を選ぶのは、自分は「取るに足らない存在」だという気持ちから抜け出すためだ……かれらが人前で語れるアイデンティティは、イスラムしかない……フランス人というアイデンティティを受け入れれば、毎日二流市民として生活しなければならず、劣等意識を認めることになる……。
3
アフガニスタン侵攻では、公には伏せられていたが、国防総省の上層部(文民)と軍との不和がおこった。
多国籍軍の作戦は成功に終わったという報道や発表がなされているが、実情はそれとかけ離れている。
・米軍は地方軍閥を支援することでタリバン時代よりも治安を悪化させた。地方軍閥は、麻薬栽培と取引で勢力を強めていった。同時に、テロリストたちも潜伏した。
・米軍の傀儡であるカルザイ大統領には実権がなく、実際にはカーブル市長でしかなかった。
――ハミド(カルザイ)はいいやつだ。人を殺さない。物を盗まない。麻薬を売らない。でも、そんなやつが、どうしてアフガニスタンの指導者になれるんだ?
・米軍の作戦は広大な領域を制圧するものではなかった。間もなくタリバン、アルカイダは勢力を取り戻した。特殊作戦専門の退役将官が、アフガンにおける作戦を批判する報告書を書いたが握りつぶされた。
・米国には、アフガン侵攻をどのように終結させるかのプランがなかった。治安が徐々に悪くなっていく現状に対して、国防総省の閣僚は「正しい人びとが出現することを願う」とだけいった。
・イラク戦争の開始とともに、現地工作員や軍の主力が引き抜かれていき、アフガンは手薄となった。
[つづく]
- 作者: セイモアハーシュ,Seymour M. Hersh,伏見威蕃
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