うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

「ドライヴ」

 制作:2011年

 監督:ニコラス・ウィンディング・レフン Nicolas Winding Refn

 
 自動車工場で働くかたわら、スタントマンや犯罪者の逃亡手伝いをする運転手の映画。

 主役の出自は不明だが、高い戦闘力を持っており、ほとんど銃を使わずに町のチンピラたちを殺害していく。職業的な犯罪者を次々と自動車や工具で殺し、最期まで生き延びる。

 隣の部屋にいる子持ち女性との交流が主な原動力のようだが、あまり感情の動きは読み取れない。

 寡黙な主人公の活躍や、ロサンゼルスの風景、カーチェイスが見どころである。

ドライヴ [Blu-ray]

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『健康帝国ナチス』ロバート・N・プロクター その2

 5

 ヒトラーはたばことアルコールを拒否し、菜食主義に努めた。ヒムラールドルフ・ヘスも菜食主義者だった。ヒトラー個人の嗜好と党の方針によって、肉食の規制、自然食の推進、人工着色物の規制といった政策がとられた。

 また、ドイツ国民がビールにあまりに多くの所得をつぎ込んでいるということが問題視され、禁酒運動がすすめられた。

 もっとも、実際には国民の抵抗が強く、戦況が悪化し食糧が不足するまでは、ビールや肉の消費はあまり変化しなかったようだ。

 

 6

 たばこ撲滅運動は、アメリカに先駆けてドイツで最も早く始められた。ナチ党を支持するガン研究者らによりたばこの害毒が検証され、たばこ産業や広告に対する規制が強化された。

 一方で、経済相とたばこ産業はこうした反たばこ運動に抵抗し、自分たちの利益を確保しようとした。

 ナチスドイツにおけるたばこ撲滅運動の問題は、たばこの規制とガンの予防を唱える学者らのほとんどが、人道的犯罪に加担していたことである。

 たばこ害毒研究所所長のカール・アステルは精神病患者の安楽死を推進し、反たばこ運動の推進者フリッツ・ザウケルは絶滅収容所への関与によりニュルンベルク裁判で死刑となった。

 その他の医者たちも、断種や安楽死政策に関与していた。

 ナチ党下の健康政策には、劣った要素を排除するという要素と、優れた要素をさらに伸長するという2つの要素が併存している。

 たばことアルコールの抑制によって、優れた、純潔で健康なアーリア人特性を強化することと、劣等人種や社会的無用者を処分することとは同じ平面上にあったという。

 たばこの害毒を研究する医学界と、それに反対し、自分たちの研究機構をつくるたばこ産業という構図は、戦後アメリカで繰り返された。

 

 7

 ナチス・ドイツそのものが一枚岩ではなく、様々な省庁や幹部が勢力争いを行っていた。医学界も同様で、ナチ党支持の医学がすべて科学的に誤っていたわけではない。

 メンゲレの人体実験や、収容者を用いた科学実験だけがナチ医学ではない。

 善い政府のもとで善い科学が栄える、という風に社会と科学の関係を単純化することは不可能である。

 

 ――科学史家がとくに強調することをひとつあげろと言われたら、科学的概念は真空のなかで発展することはない、ということだろう。概念は「価値観の坂」の上に乗っていて、社会の微妙な力によっていつも上へ下へと変化しており……。

 ――本書の目的は、ドイツの科学と医学のナチ化は、一般に思われているほど単純なものではないと示すことである……私が強調したいのは、日常的な平凡な科学の実践と日常的な残虐行為の実践とが共存しうることを、もっとよく理解する必要があるということである。

 

 文中にあるように、ナチスへの道は無関心でつくられていたという。

 いかなる科学も政治から逃れることはできない。研究者たちは、邪悪な政府の下で行われた研究から、学べる事項を適切に拾い上げなくてはならない。

 一方で、健康政策が先駆的であったという理由でナチスドイツを正当化することも間違いである。

  ***

 この本のなかで、ポーゼンにつくられた第三帝国ガン研究所についての言及がある。この施設は偽装施設であり、実態は生物兵器の研究がおこなわれていたという。

 

健康帝国ナチス (草思社文庫)

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『健康帝国ナチス』ロバート・N・プロクター その1

 原題は「ナチの、ガンとの戦争」The Nazi War on Cancer

 

 ナチ党政権時代の医療、健康、福祉政策を検討し、さらに政治と科学の関わりについて考える本。

 本書が題材にするのは、断種や人体実験、安楽死等のおぞましい医学ではなく、現代の価値観とも類似している「良質な科学」である。

 著者によれば、ヒトラー政権下において、科学は「政治とは無縁に経済力・軍事力を支援する動力として許容されていた」。

 一部の科学者たちはナチズムに賛同するわけではなく、「無責任な純粋さ」で研究に励んだ。

 ナチスの健康政策と、絶滅政策には関連があると著者は主張する。

 

 1

 20世紀前半においてドイツは医学研究の最高峰だった。これはナチス時代も同様で、ヒトラー政権下ではガン研究が進められ、またガン予防のための生活改善プログラム、たばこ撲滅運動が実行された。

 元々、工業国であるドイツにはガン患者が多く、ガン予防と衛生・健康政策は国策として行われていた。

 

 2

 ガン研究が組織化され、ガンは国家の敵であり、ドイツ民族の健康を害するものであると断定された。

 一方1933年の公職法制定に伴い、医学界からユダヤ人研究者が追放された。それでも、ガン研究は続けられた。

 ナチ政権による用語の言い換えについて言及される。

 殺人は「特別処置」、「最終的解決」等無数の言葉に置き換えられた。ユダヤ人、共産主義はガンに例えられることもあった。

 

 3

 ガンの原因が遺伝的なものか、環境によるものかは、学者によって意見が分かれた。人種や皮フの色に起因するものがある一方、生活習慣や、特定の産業への従事や、化学物質の摂取が原因と考えられるものもある。

 ナチズムは人種主義、根源主義、急進主義を採用した。様々なガン研究は、優生学や人種衛生学を出発点としている。

 

 4

 Ⅹ線の研究と応用について。Ⅹ線はレントゲン撮影で用いられていたが、レントゲン技師・大量にⅩ線を浴びた者の、ガン発生率や奇形出生率が問題となった。

 Ⅹ線の危険性を訴える研究者がおり、かたや、Ⅹ線照射によるユダヤ人の断種や、航空機を利用したⅩ線攻撃も検討された。

 1930年代には、それまで温泉や食品などに用いられていたラジウムラドンが、重大な放射線障害を引き起こすということが明らかにされた。

 アスベスト石英ヒ素ラドン、Ⅹ線等の健康被害について、ナチスドイツの研究は、英米や日本より数十年進んでいた。こうした研究の推進は、労働効率の向上と、健康な労働者国民の育成を命題とする党のイデオロギーと密接につながっていた。

 [つづく]

健康帝国ナチス (草思社文庫)

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